黄表紙。2巻2冊。恋川春町(こいかわはるまち)作・画。1775年(安永4)刊。「金々先生」とは当時の流行語で、流行の先端をいく金持ちの粋人を意味する。江戸でひともうけしようとする田舎者(いなかもの)金村屋金兵衛は、目黒不動で名物の粟餅(あわもち)を食べようとし、それができあがるつかのまの夢に、富商の婿となって遊里での栄華を極めるが、遊びがすぎて勘当の身となる顛末(てんまつ)を見、人間一生の楽しみもしょせん粟餅のできあがる間の夢にすぎないと悟る。
筋立ては、前代の草双紙(くさぞうし)たる青本『浮世栄花枕(うきよえいがのまくら)』などにも先例のある謡曲『邯鄲(かんたん)』によるが、洒落本(しゃれぼん)『辰巳之園(たつみのその)』『当世風俗通(ふうぞくつう)』などの先行作の趣向を巧みに取り入れ、吉原や深川などの江戸の色里を舞台に、当世流行の通(つう)意識のさまざまを斬新(ざんしん)な絵と知的な文とによって活写し、リアルな洒落本の世界をナンセンスな絵本に仕立てることに成功した。赤本以来の草双紙が子供向けであったのを一変させて大人向けの読み物とし、のち黄表紙の鼻祖と評価されるなど、文学史的に大きな意義をもつ。
[宇田敏彦]
『浜田義一郎他校注『日本古典文学全集46 黄表紙・川柳・狂歌』(1971・小学館)』▽『小池正胤・宇田敏彦他編『江戸の戯作絵本1』(社会思想社・現代教養文庫)』
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恋川春町画作の黄表紙。1775年(安永4)江戸鱗形屋(うろこがたや)孫兵衛刊。田舎出の若者が夢の中で栄華をきわめるが,それによって人生を悟るという筋。謡曲「邯鄲(かんたん)」の筋立てを主軸とし,ほかに謡曲「鉢木」「通小町」などの趣をとりいれ,当代の風俗を巧みにうがつ。青本の戯作化をはかって成立したともいえる本作は,青本と同体裁ながら,その知的な趣向でそれ以前の草双紙とは明確な一線を画す。本作刊行を文学史では草双紙の歴史における黄表紙時代の始まりとする。「日本古典文学大系」所収。
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