歩行に困難な険しい道,または盗賊の出る所などをいったが,近世になると《色道大鏡》(1678ころ)や西鶴の《好色一代男》(1682)その他にみられるように遊里をさすようになり,のちには芝居町をもさすようになった。〈あくしょう〉とも読んで〈悪性〉に通じ,また〈悪所場(あくしよば)〉とか〈悪性所(あくしようどころ)〉ともいった。〈悪所狂い〉〈悪所銀(がね)〉などとも用いられている。〈悪〉ということばには,善に対する悪のほかに,善悪を超越したデモーニッシュな力や魅力が託されている。悪源太とか悪七兵衛景清とか,超人的な能力の持主をいうときの〈悪〉にも通じる側面がある。つまり,近世の人々は遊里や芝居を近づいてはならない悪い所と考える一方,そこに制度的な価値観や論理を超越した〈悪〉の虚構空間をつくりだしていたということになる。近世の文化はこの悪所空間を源泉として開花したものが少なくない。もっとも,このような悪所も,根底では金に支配されており,制度的な現実と持続的に接しているため相互に越境しあうことになり,その葛藤が文芸の題材になったりもする。また,虚実の間を生きる意識が洗練されることにもなり,悪所の粋(すい)・通(つう)・野暮(やぼ)といった美意識が日常生活における美意識として定着していったりもする。
執筆者:日暮 聖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…しかし,幕府の売春政策は不徹底で多くの私娼を容認した。その背景として,遊廓を悪所(あくしよ)と呼びながら,売春そのものを罪悪視しない風潮が存在したことが挙げられる。一方,売春の営業には情緒的要素を介在させることが多く,古代の白拍子(しらびようし),近世の上級遊女や芸者における芸能はその一例である。…
※「悪所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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