多数の有権者宅を軒並みに訪問して投票依頼する選挙運動の一形態。これは、1925年(大正14)の普通選挙法の採用時、新たに選挙権を獲得した無産者が買収されることを恐れ予防措置として禁止されて以来、現在まで規制され続けている。旧衆議院議員選挙法や初期の公職選挙法が禁じた道路上での有権者への働きかけ(個々面接)、電話による投票依頼、親族のような親しい者の訪問などについては、徐々に規制が解除あるいは緩和されてきたが、現行の公職選挙法(138条)においても、戸別に行う演説会の開催告知や、特定候補者名の言い歩き行為は戸別訪問とみなされ、禁じられている。最高裁判所も1950年(昭和25)以来、表現の自由といえども無制約のものではなく、公共の福祉のための合理的制限には服するとした。そのうえで、
(1)戸別訪問が買収や利益誘導などの不正行為の温床となるおそれが強いこと
(2)候補者間に無用な競争を引き起こし、選挙運動の実質的公平が害されやすいこと
(3)義理人情などが働き、自由意志に基づく投票が妨げられるおそれがあること
(4)戸別訪問を許せば、個人の静かな生活がかき乱されてしまうこと
などをあげて、戸別訪問の禁止を合憲と判断しつづけた。しかし学界においては、このような規制が現行憲法のもとでは表現の自由に対する侵害であるとして、違憲論が根強い。下級裁判所の判決にも、買収と戸別訪問の因果関係を具体的に否定する、きめ細やかな論理が現れるまでに至っている。国民の良識を信じ、自由な選挙を目ざして、規制に再検討を加える時期を迎えているといえるだろう。
[佐々木髙雄]
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…欧米諸国にみられる多様な選挙運動も日本では禁止・制限されている。戸別訪問の禁止,署名の禁止,人気投票の公表の禁止や,文書図画の頒布・掲示の制限,ポスターの枚数の制限,街頭演説の制限,選挙運動期間の制限などはその例である。これらの規制は政治的表現の自由との関係で争われている。…
… 行政犯的選挙犯罪としては,選挙費用取締規定違反の罪(246~250条)と各種の選挙運動取締規定違反の罪が重要である。とくに後者は多数あるが,事前運動の禁止(239条1項1号,129条),戸別訪問の禁止(239条1項3号,138条),文書図画の頒布の制限(243条1項3号,142条),ポスターの数および掲示の制限(243条1項4号,144条,244条1項3号,145条),規定外の新聞紙・雑誌による選挙報道・評論の禁止(235条の2‐2号),立会演説会および所定数以外の個人演説会の禁止(243条1項8号の3,164条の3)等が規定されている。 選挙犯罪に対しては刑罰のほかに付随的制裁が定められている。…
※「戸別訪問」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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