日本大百科全書(ニッポニカ) 「投票制度」の意味・わかりやすい解説
投票制度
とうひょうせいど
普通は、選挙における選挙人の意思表示の制度・手続をいうが、広義には、書面による賛否の意思表示の制度・手続一般(たとえば、憲法改正についての国民投票、最高裁判所裁判官の国民審査など)をいうこともある。
(1)秘密投票制 投票がだれによるものであるかを秘密にすることは、選挙人の自由な意思による選挙権の行使を保障し、選挙の公正を確保するために不可欠な原則であり、近代選挙法の基本原理である。日本国憲法第15条4項は秘密投票を保障し、公職選挙法はそのための具体的措置として、無記名投票制、投票用紙公給制、混合開票主義などを定めている。
(2)任意投票制 正当な理由なく棄権する者に制裁を加えるのが強制投票であるが、今日では一般に任意投票制(=自由投票制)が原則である。
(3)一人一票主義 選挙人の財産、門地その他の条件により1人に2票以上の投票権を認める制度を複数投票主義というが、現行制度は、平等選挙の原則に基づき、各選挙につき、1人1票としている。いわゆる議員定数不均衡訴訟では、投票の形式的平等だけでなく、1票の実質的価値の平等が問題となっている。
(4)単記投票制 投票用紙に1人の候補者の氏名を記載する場合を単記投票制といい、2人以上の候補者の氏名を記載する場合を連記投票制という。現行制度は単記投票制である。
(5)自書主義 投票用紙への記入方法としては、選挙人自らが候補者の氏名を記入する方式(自書主義)と、候補者名の印刷された投票用紙に○×などの記号をつける方式(記号主義)とがある。日本では自書主義が原則であるが、地方公共団体の議会の議員または長の選挙の投票については、地方公共団体の条例で記号式投票をとることもできる(公職選挙法46条の2)。なお、視覚障害者には点字による投票が認められている(同法47条)。また、身体の故障または識字能力がないため候補者の氏名を記載できない者には、代筆による代理投票が認められる(同法48条)。
(6)投票所投票主義 投票は、投票日に選挙人が投票所に出頭して自書した投票用紙を投票箱に入れることを原則とする(同法44条)が、それが困難な場合には不在者投票が認められる(同法49条)。不在者投票は、投票日前にあらかじめ投票する制度であり、不在者投票管理者(所属地の選挙管理委員会委員長や都道府県選挙管理委員会の指定する病院・老人ホームの院長など)の管理する投票記載場所において投票する一般的な不在者投票制度と、自宅などからの郵便による不在者投票(郵便投票)の制度がある。前者の不在者投票が認められる事由は、投票日当日、職務に従事しなければならないこと、用務のために旅行中であること、病気・妊娠・老衰により歩行困難であることなどである(同法49条1項各号)。後者は、身体に重度の障害のある者(身体障害者福祉法に規定する身体障害者または戦傷病者特別援護法に規定する一定の障害をもつ者)にのみ認められている(同法49条2項)。
また、1998年(平成10)の公職選挙法改正により、海外に3か月以上居住する者は、在外選挙人名簿に登録すれば、衆議院・参議院の比例代表選出議員の選挙に限って、在外公館などで投票を行うことができるようになった(在外選挙制度)。2007年(平成19)6月以降の国政選挙からは、選挙区選出議員についても投票が可能になった。在外公館に出向いての投票が著しく困難である場合には、直接、市区町村の選挙管理委員会へ郵送することも可能である(同法49条の2)。
国際化の進行を背景として、海外に住む日本人有権者の在外投票は制度化された。しかし、日本に住む定住外国人には選挙権が認められていないので、公職の選挙において投票することはできない。1995年2月、最高裁判所は、日本に永住しているなど、地方自治体ととくに密接な関係をもつ外国人に、法律によって地方選挙の選挙権を与えることは、憲法上禁止されていないとの判断を示したことから、定住外国人の地方選挙における選挙権が立法政策上の問題(定住外国人地方参政権問題)として政治的課題になった。
[三橋良士明]