社債権担保のために担保付社債信託法(1905公布)の定める物上担保(物的担保)の付せられた社債。社債に付けることのできる物上担保は,動産質,証書のある債権質,株式の各質,不動産抵当,船舶,自動車,航空機,建設機械の各動産抵当,鉄道,工場,鉱業,軌道,運河,漁業,自動車交通事業,道路交通事業,港湾運送事業,観光施設の各財団抵当,企業担保(企業担保権)の19種に限られる(担保付社債信託法4条)。特殊会社の発行する社債で,法律上社債権者が会社の総財産からの優先弁済権を与えられている一般担保(ゼネラル・モーゲージ)付社債は,担保付社債とは異なる。社債権者は株主に優先して弁済を受けうるのみで,他の債権者に優先するためには担保権を設定するほかないが,多数の社債権者に個別的に担保権を設定することは困難かつ煩雑なので,イギリス,アメリカの信託法理を導入して担保付社債信託法が制定された。同法によれば,社債に物上担保を付けようとするときは,発行会社(委託会社)は信託会社(受託会社)と信託契約を締結することを要し,これによって受託会社は担保権を取得すると同時に,総社債権者のために担保権を保存・実行する義務を負い,社債権者は受益者として債権額に応じて平等に担保の利益を享受するものとされている(2条,70条,71条)。また,受託会社は,社債の管理については,無担保社債の社債管理会社と同一の権限を有し義務を負うことになる(69条)。同法は,当初,同一担保について社債を1回に発行する閉鎖担保(クローズド・モーゲージ)のみを認めていたが,1933年の改正により,発行する社債の最高額を定め,これにつきあらかじめ担保権を設定し,その額に達するまで同一順位の担保権を有する社債を数回に分けて発行する開放担保(オープン・エンド・モーゲージ)が認められ(19条ノ2,19条ノ3),後者が広く行われている。日本では従来,金融債を除いて,事業債は担保付きであるのが原則であったが,最近では,無担保社債が一般的になっている。
→無担保社債
執筆者:藤井 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
社債権担保のために、物上担保がつけられている社債。無担保社債に対立する概念。正式には担保付社債信託法(明治38年法律第52号)によって定められた担保がつけられている社債をさす。社債は大量に発行され、社債権者の数も多く、社債の移転も頻繁であるので、各個の社債について個別的に物上担保権を設定することは事実上困難である。したがって、信託法理を利用し、社債発行会社(起債会社)と社債権者の中間に信託会社(信託銀行)を置き、これに社債権者のための物上担保権を信託することにした。すなわち、起債会社(委託会社)と信託会社(受託会社)間の信託契約(担保付社債信託法2条1項、18条)によって、受託会社が担保権を取得し、社債権者は受益者として担保の利益を債権額に応じて享受するのである(同法37条)。同一担保について社債を1回に発行するもの(閉鎖担保)と数回に分けて社債を発行するもの(開放担保)とが担保付社債の発行方法として認められているが、後者が大部分である。日本では、事業債についてはほとんどが担保付社債として発行されるが、担保付社債信託法上の物上担保としては19種のみが認められている。そのうち、株式会社の総財産を一体として変動するままの状態で担保に供する企業担保と財団抵当とが重要である。
[戸田修三・福原紀彦]
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