債権の担保として,債権者が債務者または第三者(物上保証人)から受け取った物を留置して債務弁済を間接的に強制するとともに,弁済されない場合にはその物から優先弁済を受けることのできる担保物権(民法342条)。質権はもともと動産について認められた権利(動産質)であるが,のちに不動産についても認められ(不動産質),さらに債権,株式,各種の無体財産権(権利質)などについても認められるようになったものである。日本の民法もこれら3種の質権につき規定するが,質権の本来の特色を最も典型的に示すのは動産質権で,それと比較すると他の二つの質権はかなり特殊な性格をもっている。
質権は抵当権と同様,当事者間の契約によって成立する約定担保物権である。しかし抵当権にあっては目的物は担保設定者(所有者)が引き続きその占有を継続するのに対して,質権にあってはその占有を担保設定者から担保権者に移転するという点に両者の根本的差異がある。両者の法的構造ないし社会的作用のちがいもこのことと密接に関連する。すなわち質権における占有の移転は,質権の存在を占有移転という明確な徴表によって第三者に公示するはたらき(公示の作用)と,目的物の占有を質権設定者から奪うことによって間接的に債務の弁済を強制するというはたらき(留置的作用)とを有するものである。そしてこの二つの作用が,抵当権に対する質権の長所ともなり短所ともなっている。
ただ注意すべきことは,この二つの作用は一定の限られた種類の動産についてのみ典型的にあらわれるのであって,他の多くの重要な財産上の質権については少なからぬ修正を要するということである。つまり,まず占有の移転が質権の公示方法として機能しうるのは,普通の動産および証券(倉庫証券,貨物引換証など)に化体された一定の商品だけで,不動産ないし不動産物権上の質権についてはいうまでもなく,無体財産権,記名社債などの質権についても,その公示方法は登記・登録という方法によっている。また質権の公示方法として占有移転が厳格に要求されている(とくに動産質権においては,質物の質権者への占有移転は第三者に対する対抗要件であるのみならず,当事者間での質権の成立要件であるとされている)ことは,とくに動産担保化の拡大という経済的要請に十分こたええない一つの原因となっており,その結果,一方で金融実務における譲渡担保の盛行,他方で多くの特別法による動産抵当化のための諸制度(工場抵当,財団抵当,動産抵当など)の進展がみられるに至っている。
他方,質権がその留置的作用を最も発揮するのは,生活用具のように占有を奪われることが主観的に苦痛を伴うものについてである。質権が消費信用における庶民のための金融制度として重要な機能を営みうるのもまさにこの分野においてであり,民法のほか,質屋営業法,公益質屋法等の法律により規律されている。しかし生産用具としての動産については,そもそも占有移転を要求することは不適当であり,また不動産質権は民法上も認められているが,質権者たる金融機関などによる不動産の収益は少なくとも今日では非現実的なものとなっている。
民法上,質権による優先弁済の実現は民法その他の法律に定めた方法によるべきものとされ,被担保債権の弁済期到来前の契約をもって法律の定める方法によらず任意に優先弁済の方法を定めること(流質契約)は禁止されている(349条)。暴利行為の防止がその禁止の理由である。ただし,被担保債権が商行為によって生じたものであるとき(商法515条),および営業質屋ないし公益質屋の質については流質契約は許されている。
優先弁済を受ける方法として,民事執行法による方法以外に,裁判所の選任する鑑定人の評価に従い,質物をもってただちに弁済にあてる便法が認められている(民法354条)。
土地および建物につき成立する。その存続期間は10年を超えることができず,更新後の存続期間も10年を超えることはできない(360条)。不動産質権者はみずから使用収益することができるのみならず,第三者に賃貸することも,制限物権を設定することもできる。
→権利質 →債権質 →質
執筆者:東海林 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
債権者が、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を、債務が弁済されるまで留置して、債務者の弁済を間接的に強制するとともに、弁済されない場合には、その物から優先的に弁済を受ける担保物権(民法342条~366条)。質権は抵当権とともに契約によって生ずる担保物権で、金融を得る手段として用いられる。しかし質権は、質の目的となる物を取り上げて、質権者(債権者)の手元に占有を移す点で、目的物を取り上げないで設定者のもとに置いておく抵当権と異なる。質権を設定する(質に入れる)ことのできる物は、動産がもっとも普通であるが(動産質)、そのほか不動産(不動産質)でも、債権・株式などの権利(権利質)でもよい。質権を設定するためには、目的物を債権者に渡さなければならないから、債務が弁済されるまでは、質権設定者はその物を使用できない。したがって、企業資金を獲得するために、企業の設備などを担保にするときには、質権は不便であり、そのような場合には、抵当権のように担保となる物を債権者に渡さなくてもよい方法が選ばれることが多い。
質権は主として、庶民が日用品などの動産を担保に比較的少ない額の金を借りる場合に用いられる。そのように物品を質にとって金融を行うことを業とする者が質屋であるが、質屋は質屋営業法(昭和25年法律第158号)による法的規制を受けている。不動産質は、不動産を債権者に渡してしまうと、明日からの生活あるいは企業活動の根拠を失うことが多いので、あまり利用されない。これに反して、債権・株式などの権利質は、債権証書や株券を質に入れても、直接痛痒(つうよう)を感じないので、銀行から資金を借り入れる場合などにしばしば利用されるようになってきた。
質権者は質物を留置する権利とともに、債務者が期限に弁済をしないときに質物から優先的に弁済を受ける権利をももつ。優先弁済を受けるには、原則として民事執行法による競売の手続をとらなければならない。債務者が期限に弁済をしないときには質物は当然質権者の所有になる(質流れになる)という「流質(りゅうしち)契約」は法律により禁じられている。債務者がわずかな債務のために高価なものを失うはめになることを防止しようという趣旨である。ただし、商人がその営業によって取得した債権を担保するための質権(商法515条)や、簡便でしかも少額の金融を目的とする営業質屋には、質流れも許されている。
[高橋康之・野澤正充]
質権者が質としてとっている物を、さらに自分の債務のために他人に質入れすること。たとえば、甲の時計を質にとっている乙が、その質物をさらに質に入れて丙から借金するのが、それである。転質をするには質入れした人(甲)の承諾はいらない。そのかわり、転質をした者(乙)は、転質をしなかったら生じなかったはずの損害は、たとえ不可抗力による損害があっても、賠償しなければならない。
[高橋康之・野澤正充]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…
[意義]
担保物権の一つで,債務者または第三者(物上保証人)が債務の担保に供した物を,担保提供者の使用収益にゆだねておき,しかも債務が弁済されない場合にその物の価額から優先的弁済を受けることができる権利(民法369条以下)をいう。抵当権は,質権とともに,契約によって成立する約定(やくじよう)担保物権であり,競売の売得金から優先的に弁済を受ける権利(優先弁済権)を有する点でも質権と同じである。しかし,抵当権は,目的物を引き続き設定者の占有にとどめておく点において質権と異なる。…
※「質権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新