旧石器時代の骨角器。有孔棒bâton percéとも呼ばれている。鹿角製で,一端の,ちょうど叉角の第1枝の中央部に,1個ないし複数の孔がうがたれている。呪術的な指揮杖とも考えられているが,類似したものはエスキモーにも認められる。それは,骨製の棒に熱を加えて真直ぐにするための〈てこ〉として使用される。指揮棒の孔の周辺には使用痕が残されているので,槍や鏃の柄などを真直ぐにするために利用された可能性もある。また投槍器であると考えている研究者もいる。指揮棒の軸部には,写実的な動物の絵や幾何学文様などの線刻が施されるのが通常である。ヨーロッパの後期旧石器時代のオーリニャック文化期から後期マドレーヌ文化期にかけて,その出土例が報告されている。また,シベリアの後期旧石器時代遺跡アフォントバ山Ⅱや中国黒竜江省のジャライ・ノール遺跡からも類似のものが発見されている。
執筆者:加藤 晋平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヨーロッパ、後期旧石器時代特有の角(つの)製品。古くから、呪術(じゅじゅつ)的な儀礼の際に用いられる指揮棒であると解釈され、一般にこう呼び習わされている。
トナカイの角を材料にしてつくられた棒に、1か所ないし複数の孔(あな)を穿(うが)ったもので、一端に、枝角の叉状(さじょう)部を留めるように切断して、ここに孔を開ける。このために、多くの場合Y字状の形状を呈する。シカなどの動物や幾何学的な文様によって飾られていることがある。長さ20~30センチメートルほどのものが多い。
一方、エスキモーは、同様の道具を、棒状の骨製品のゆがみを矯正するために用いていた。これにヒントを得て、投げ槍(やり)の柄(え)などをまっすぐに仕上げるための道具であると解釈する立場も有力である。その証拠として、孔の周縁部に、加工作業の際に生じた摩耗痕(こん)がしばしば認められるという。この場合は角製有孔棒とよばれることが多い。
[鈴木忠司]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一般にオーケストラや合唱,オペラ,アンサンブルなどを身ぶりやバトン(指揮棒)を用いて可視的手段によって統率すること。指揮者(コンダクターconductor)はリズムや拍子をとるばかりでなく,楽器や声の〈入り〉(アインザッツEinsatz)を示しながら,ディナーミク,フレージング,アーティキュレーションその他の細かい表情を指示する。…
…今日〈タクトをとる〉といえば,拍や拍子を明示することで,音楽を指揮することと同義的な言い回しにも用いられる。また日本では,その際に用いる指揮棒(タクトシュトックTaktstock,バトンbâton)のこともタクトということがある。 多人数での演奏(合唱や合奏)の際,リーダーの動作や指示をはっきり見せようとして,棒などを利用することは古くからあったろう。…
※「指揮棒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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