海水を採集するための器具で,海中で直接測定できない溶存化学物質を分析するためや,微生物を採集するためなどに使用される。また,海中で直接測定が可能であっても,測定器具を較正するために海水を採水する必要があり,海洋観測には欠かせない器具である。用途により多種多様のものが考案されており,採水量は微生物採集用の数mlから,微量元素分析用の数百lまである。表面水は観測船から採水バケツ等で採集する。以深の海水はワイヤにとりつけた採水器を船から下ろし,希望の深度で採水して船に引き上げる。転倒採水器がその代表的なものである。転倒採水器は採水するときに器具を転倒させ通水孔を閉じる構造になっており,転倒させるのは,同時に転倒温度計をはたらかせ,採水地点の温度を測定し,温度から深度を測定するためである。1本のワイヤに連装する方式が多く,メッセンジャーと呼ぶおもりをワイヤに沿って落下させて順次採水器を作動させる。転倒温度計のかわりにCTDを使用する場合は,船上からの電気信号で作動させる。採水層までの海水による汚染をさけるため,採水時に開閉する採水器も考案されている。確実な試料を手に入れるための工夫がなされたさまざまな型のものがあり,それぞれ考案者の名を付して呼ばれることが多い。1920年代にノルウェーのF.ナンセンが考案した転倒採水器(ナンセン採水器)は今日でもしばしば使われる。
執筆者:平 啓介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海水、陸水の表面やそれ以深の試水を採取する器械。表面採水にはゴム製二重バケツが用いられる。表面以深用には特別のものが用いられ、ワイヤやロープに沿って落下されるメッセンジャー(おもり)により所定の深度で転倒させたり、蓋(ふた)をしたりして採水する。多筒採水器、絶縁採水器など多くの形式があるが、海洋観測用にはナンセンの開発した転倒温度計付きの転倒採水器が長く使われてきた。その後、電気伝導度水温水深計Conductivity-Temperature-Depth profiler(CTD)の実用化により、1980年代に入り、多筒採水器としてCTDを取り付けた台座に取付装置をつけ、放射状(ロゼット状)に12~24本のニスキン採水器(硬質塩化ビニル製の円筒部分と蓋、蓋を閉じるためのばね、固定用ロッドからなる。容量は1~30リットルのものが市販されている)を取り付けたロゼット型採水器が一般化している。
[半澤正男・佐伯理郎]
『大和田紘一著・刊『海洋微生物研究のためのロゼット型無菌各層採水器の開発』(2001)』▽『柳哲雄著『海洋観測入門』(2002・恒星社厚生閣)』
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…しかし,数千mに及ぶ深海からその深さや水温が正確にわかる試料を他の海水と混合させずに,また目的とする成分に変化を与えずに採取することは必ずしも容易ではない。これまで通常の海洋観測では,1904年ノルウェーの海洋学者F.ナンセンの考案した採水器(ナンセン採水器)が世界的に最も広く用いられてきた。この採水器は,観測船のウィンチから繰り降ろすワイヤに適当な間隔に取りつけ,目的とする長さまで伸ばして採取するもので,1~2lの海水試料が得られる。…
※「採水器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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