日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治二論」の意味・わかりやすい解説
政治二論
せいじにろん
Two Treatises of Government
17世紀イギリスの哲学者・政治思想家ジョン・ロックの政治的著作。1690年刊。「市民政府論」「市民政治二論」「統治論」「統治二論」などとも訳されている。名誉革命を擁護するために書かれたものだが、執筆の時期は、議会と国王の対立が激化し始めた1680年前後ごろからだといわれる。
第一部と第二部からなり、第一部は、R・フィルマーの『パトリアーカ』(家父長制論)にみられる王権神授説批判、第二部では、「政治的統治の真の起源、範囲、目的」などを論じながら、彼自身の市民政治論を展開している。第一部では、各国君主はアダムの子孫であり、神はアダムに絶対権力を与えた、また父と子の関係はもっとも自然的なものであり、家長は子の養育に関して生殺与奪の権をもち、君主はそれらの家長の頂点にたつ者である、という聖書と自然の二つの論拠から絶対君主論を展開したフィルマーの家父長制論に対して反駁(はんばく)している。そして、政治社会とは、フィルマーがいうような単なる家族の集合体ではなく、所有権(プロパティ)(生命・自由・財産を含む)を守るために設けられた共同社会(コミュニティ)であるとして、ホッブズ流の社会契約説を展開している。
続いてロックは第二部において、人々はなぜ政治社会を設けたかという理由を述べる。それによると、人々は自然状態においては自然法の支配する下で平和に暮らしていたが、やがて貨幣が発明され、財産の蓄積が可能になると、強奪・詐欺などの不都合な事態が生じたため所有権を守るために契約を結んで政治社会を設けた、と述べている。さらにロックは、政治社会を運営するためには良法の制定が必要であるとして、国王・上院・下院からなる議会に最高権力を与え、もしも立法権と、行政権をもつ国王との間に矛盾が生じれば、立法権が優位すると述べ、ここに、法の支配と議会制民主主義の近代的原理が確立された。また、立法部や行政部が契約を結んだ目的を破壊するような行動をとれば、革命を起こしてもよい、という革命権を是認しているが、これは名誉革命の正当化といえる。本書は、後のアメリカ独立宣言やフランス人権宣言に大きな影響を与えたといわれる。
[田中 浩]
『鵜飼信成訳『市民政府論』(岩波文庫)』▽『友岡敏明訳『世俗権力二論』(1976・未来社)』▽『伊藤宏之訳『統治論』(1997・柏書房)』