無関心(アパシーapathy)とは、元来精神分析学の用語で、その対象に対して強い欲求をもちながら充足されないために、かえって対象に対する関心を失うことによって精神的不安定を解消しようとする心理的メカニズムの一つをさす。政治的無関心とは、現代社会において、政治に対するさまざまな要求が達成されず、政治的無力感と不信感に陥り、政治への関心を失ってしまった人々のことをさす。近代以前の社会においては、社会の成員の多くはもっぱら統治の対象としてのみ取り扱われ、政治的意思決定から排除されていた。このような生活に慣れて、政治は「お上」の仕事と考え、政治参加への意欲も関心ももたない人々の政治的無関心=indifferenceを伝統的政治的無関心とよぶ。現代社会は、このような伝統的無関心ばかりではなく、政治的無力感や不信感に起因する現代的無関心層の増大によって特色づけられる。
現代社会においては、不況やインフレーションなど経済的危機の到来や、戦争の脅威や平和の危機が迫った場合、人々の政治的関心はにわかに高まる。しかし、平和と経済的繁栄の下では、人々の関心は多様化し、相対的に政治的関心は低下してくる。政治的知識をもちながら、ほかに関心を奪われて政治的関心を示さない無関心層が増えてくる。政治を自分が主体的に参加すべき対象とせず、自分自身を政治の圏外に置いて、単なるゲームの観客としてこれを楽しむといった態度も現代の特色の一つである。
最近のわが国では、大都市の20代の若者において、政治的アパシーや単純な政治的無関心層が急速に増大している。これら無関心層は、選挙直前に政治指導者の腐敗が暴露されるといった事件が生じたり、選挙戦中に総理大臣が急逝するといった政治的危機に臨むと、にわかに投票に出動する。また、その選挙区が有力候補者のひしめき合う激戦区であるといった、選挙の劇的性格が強い場合にも、投票率は高まる。いわゆるイメージ選挙によって影響を受けやすいのもこの層である。これら無関心層が投票に出かけるか否かによって選挙結果が左右され、当落が逆転するというキャスティング・ボートを握っているという点で、これら無関心層の存在は現代政治における大きな不安定要因になっているといってよい。
[堀江 湛]
広く政治上の問題や政治的活動一般に対する無関心な態度を指し,アパシーapathyともいう。このような態度は,行動の面では政治参加への消極性,選挙における棄権,政治的情報獲得への消極性などとして現れてくる。現代民主制が国民による選挙を前提としている以上,棄権の問題は重要であり,政治的無関心が棄権の原因として論じられることが多い。政治的無関心にはいくつかの類型がある。
まず,近代以前の伝統的社会においては,政治は少数の支配者層だけのものであり,一般民衆は政治に参加する機会がなかった。ここに生ずる〈伝統型無関心〉は,政治とは無縁の生活感覚であり,政治は他人の仕事であるという意識である。近代以降の社会では選挙権が拡大し,国民の政治参加が保障されることになるから,伝統型無関心は姿を消す。しかしながら,個人にとって政治は中心的な関心事とはなりにくく,〈素朴型無関心〉が生じる余地がある。すなわち,生活のための職業や専門が個人のもっとも重要な関心事であるため,政治は周辺的な事柄でしかないわけである。この型の無関心は,したがって,伝統型無関心と類似した側面をもっている。現代社会における無関心は,さらに複雑な〈屈折型無関心〉をも生じている。政治に対する関心はあり,政治的問題に関する知識も備えており,また,政治参加に対する市民的義務感をもっていながら,なお政治に背を向け,政治に参加しようとしない無関心である。この背景には,政治参加することに意味を見いだせず,大衆社会の中で政治に影響を及ぼせないという無力感があり,巨大化した官僚組織や政治制度そのものに対する不信感と焦燥感がある。屈折型無関心はこのような政治不信によって生じたものであり,政治体制の安定にとっては危険な要素をはらんでいる。
執筆者:川人 貞史
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