政治責任は,概念上倫理責任と法的責任との中間領域に存在し,政治権力(統治者またはその集団)に対する被統治者による監視と抑制の役割を果たしている。すなわち政治責任は,政治的意図や目的の倫理性とは無関係に,政治過程において適正な価値配分の実現や秩序の維持に失敗した場合,政治権力を有する側がその結果をもって被統治者に対して責任を負うことを意味する。したがって現代民主主義国家では,選挙制度,リコール制度,責任内閣制,国家賠償責任制などによって,政治責任を制度的に追及する仕組みができあがっている。このような政治責任の制度化は,一面で前近代社会にあって天候など人間が統御できない自然環境の変化まで,統治者がその責任を負わされていたことを解除するとともに,他面で同じく前近代社会において統治者が秩序を固定化し,政治的支配を強化するため,配下の官僚に対して失敗の責任を負わせたような事態を避け,いわば政治責任の合理的な限定化を促した。
しかし行政国家と呼ばれるまでに政府の関与する領域が飛躍的に拡大かつ深化した現代国家においては,行政責任を含めて政治責任を問う機会が増大するとともに,その内容が複雑かつ多岐にわたる傾向を示している。それに加えて,科学技術の加速度的進展に伴う情報化社会の出現と,中流意識の定着を背景とする大衆社会の出現とが相まって,政治責任の象徴的儀礼としての必要性が顕在化する。だからこそ,台風や地震などのもたらす災害が自然災害か人災かで,つねに政治的争点になる。そこで仮に権力の側が,おこりうべきあらゆる問題に有効に対応するため,政治・行政の活動領域を広げれば,一方において政治的自由の保障や行財政上の負担から好ましくない結果を生じ,他方において関与領域の拡大自体が責任追及の契機を増加させるという,悪循環を生み出すことになろう。かくて被統治者による政治責任追及の一般化により,本来民主主義と不可分一体とされてきた政治責任追及のシステムは不安定化しているといわねばならない。すなわちそれは,一方で有効な統治能力をもつ強力な政府の出現を困難にし,他方で国家賠償請求訴訟においていかなる場合も政府が最後まで争う事態を常態化することに示される。現代国家における政治責任の問題は,追及と解除との緊張関係が現実の政府と被統治者との力関係にゆだねられるところが大きいだけに,今後ともたえざる流動化と混乱とを避けえないであろう。
執筆者:御厨 貴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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