日本大百科全書(ニッポニカ) 「教授学」の意味・わかりやすい解説
教授学
きょうじゅがく
教授し学習する過程を研究対象とし、教授と学習の内容と方法に関する理論を探究し実践を方向づける学問である。教授と学習は教育過程の中枢を占めるので、教授学は教育学のなかでも重要な一領域である。
教授学は、ドイツ語のDidaktikの語源的意味からわかるように、もともとは教える技術という意味である。それを「あらゆる人にあらゆる事柄を教授する普遍的技術」として体系化したのは、17世紀のコメニウスである。19世紀には、ドイツの教育学者ビルマンOtto Willmann(1839―1920)が教授学を教育学から独立させて、社会的、歴史的立場から人間陶冶(とうや)論として基礎づけた。20世紀には実証的研究方法をも取り入れて、教授学の研究は盛んになっているが、学問的体系はまだ十分に確立されてはいない。
教授学が対象とする教授・学習過程における問題としては、(1)人間のどんな資質や能力の形成を目ざして教授するかという教授目標の問題、(2)その目標を達成するためにどんな教授内容ないし教材を選択し配列し構成するかという教材の問題、(3)どんな状況でどんな学習過程に沿ってどんな形態において教授を進めていくかという教授法の問題、(4)板書や学習ノートなどをいかに有効に利用するかという教具や学習用具の問題、(5)学習過程の前・中・後の評価をどのように生かすかという学習評価とその活用の問題、などが指摘できる。
このような問題を解明するために、教授実践の記録の分析、授業を観察し記録し研究する授業分析、一定の仮説をたてて検証していく実験などの方法が採用されている。
[長谷川榮]