荘園領主の直属地。原義は〈田を散ずる〉行為を意味し,荘園領主が毎年耕作期に請作農民に対し荘田の割当てを行うことを〈散田〉と称した。例えば《東寺文書》承平2年(932)10月25日付〈伊勢大神宮司解案〉には東寺の寺使真演が川合・大国荘に派遣されたおり,〈田を諸田堵に散ぜしめおわんぬ〉とあり,田堵に〈田を散ずる〉ことが荘田の割当てを意味したことをうかがわせる。同時にこれが荒田防止の意味をもつことはいうまでもない。請作する農民は原則として,1年ごとに更新する請文(うけぶみ)を提出した。したがって地子米未進などの契約不履行にさいしては,領主側は請作の停止さらには居住の禁止すら行った。1069年(延久1)の〈讃岐国目代小野某下文案〉には,東寺の所勘に任せて耕作していた曼荼羅寺免田作人が地利未進のため,他人に宛て作らせようとしている事実もみられる。
荘園領主による散田行為は,かかる荘田に対する強固な権利を前提にしたものであり,散田が領主の直属地といわれる理由もここにある。こうした散田に対する権利の淵源は743年(天平15)の墾田永年私財法にさかのぼりうる。令制下においては寺田・神田は不輸租田=公田とされたが,この天平15年の格(きやく)により,永年私財を公認された田地が私田と観念されるに至り,在来の公田・私田の概念に変化が生じた。ここに至り永年私財を認められない乗田(じようでん)・口分田は公田とされ,寺田・神田・墾田が私田とされた。8~9世紀の班田図で寺田以下百姓墾田を〈散田〉と総称するのは,これらの田から従来の公田的性格が失われたことを意味し,このころすでに散田の強固な私有性が確立していたことをうかがわせる。室町後期に,犯罪人や百姓逃散によって耕作者がいなくなり領主が没収した田地を散田と称したが,これも散田に対する領主の強固な権利を物語るものである。なお江戸時代には散田の意は変化し,無主地や荒廃地をさすようになった。
執筆者:関 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来は「田を散らす」意で、田地を農民に割り当てること。未墾地の占定とその開発に始まる古典的荘園(しょうえん)においては、土地そのものは荘園領主の有するものであり、荘田は散田されるのを原則とした。しかし、やがて性格の異なった荘園が成立し、その経営形態も変化するに伴い、領主が自由に散田することのできない荘田が出現するようになると、領主が農民に割り当てることのできる土地は領主の直属地に限定されるので、散田は領主直属地を意味するようになったといわれているが、なお不明な点が多い。
さらに中世後期から近世においては、没収または農民の死亡・逃亡によって耕作者のいなくなった土地も、領主が没収して直属地としたため、散田といわれたという。荒廃地を散田という場合もあった。
[中野栄夫]
8~9世紀頃の史料に表れる散田は,口分田・乗田(じょうでん)以外の私有地などのこと。10~11世紀には田堵(たと)から毎年請作者を募り,荘田を割りあてることをさすようになる。この時期には散田請作が荘園経営の基本であった。中世に入ると名田にくみこまれない新開田や名主の没落などで解体した名田などをよんだ。このような散田は均等名(きんとうみょう)化する際に使われたり,下作人らが請作する領主直属地とすることもあった。中世後期にはこうした散田作人の一部は成長し,新名主になった。近世には無主地や荒廃地をいう。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは当時〈力田之輩〉とか〈有能借佃者〉〈堪百姓〉などと呼ばれる有力農民=田堵(たと)の成長が見られたのに応じて,律令国家・国衙や荘園領主が彼らに田地を割り当てて耕営せしめ,地子(じし)を弁進させた経営方式である。この場合,領主側が土地をあてがうことを〈散田(さんでん)〉と称し,これに対して田堵は当該田地を預かり相違なく地子を弁進する旨誓約した文書=請文(うけぶみ)を提出して耕営に従事したのであり,これが請作である。請作者の請作地に対する占有用益権を〈作手(つくて∥さくて)〉と呼んだ。…
※「散田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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