日本中世の古文書。一般に,上位者に対してある事柄を確言・約束するときに使用する上申文書。文書様式の原型は,律令制的な解(げ)の様式にあったが,平安時代以降,〈……御教書謹以承候了〉などと書きだし〈恐々謹言〉などと結ぶ書状の形式,および〈謹請申〉と書きだし〈仍所請如件〉などと結ぶ申状の形式の両者を基本とするようになった。どちらの場合も,多く相手に対する誠実誓約の意思を表現する〈請〉や〈承(うけたまわる)〉などの文言を含み,また充所(あてどころ)を記さないのが特徴である。さらに丁重な書式をとり,署名の下付(したづけ)に小さく請文と書き加えたり,差出人の花押を署名部分の紙背に据えるなどする場合も多い。また末尾に〈起請(きしよう)の詞〉を加えて誓約の意を強める場合もある。次に請文の表示する上位者と下位者の関係の内容に触れると,まず,請文は,暴力的強圧によって責め取られる圧状である場合もあるが,通常は,復命・承諾・申請・請願などのさまざまな場合に,一定の強制力を前提としつつも納得ずくの関係で提出される。請文提出の対象となる事柄は,(1)上位者の命令や指示の下達,(2)一定の職務,官衙や荘園の所職などへの任命,(3)土地,動産,人身などの諸物件の授受などきわめて多様である。それらのうちでもっとも重要なものは,第1に《沙汰未練書》に〈請文トハ就御教書・奉書等左右ヲ申状也〉とあるような幕府公文書に対する守護地頭以下の武士の復命の請文であり,第2に荘官職,名主職などの補任(ぶにん)の際に提出する職務請負契約の請文である。傾向としては前者は書状の形式,後者は申状の形式をとり,おのおの,前者は中世的な国制における階級意思伝達の体系,後者は土地所有=職(しき)の体系を支えるものとして中世社会の骨格をなす支配の体系を表現している。
執筆者:保立 道久
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古文書の一様式。とくに中世において、復命、承諾、申請、請願など、上位者に対してある事柄を確言、約束するとき使用される。「所請如件(うくるところくだんのごとし)」などの書止めを有する上申文書、あるいは単なる書状の形式をとり、多く「請(うく)」「承(うけたまわる)」などの文言を含むことが特徴である。下達文書、所職(しょしき)、物件などの授与行為に対して誠実を誓って提出される。代表的な用例としては、幕府御教書(みぎょうしょ)に対する守護以下の武士の請文や、荘園(しょうえん)所職の恩給に対して提出される荘官の請文があり、おのおの幕府の命令系統や荘園制的土地所有体系を媒介する枢要な役割を果たした。
[保立道久]
『佐藤進一著『古文書学入門』(1971・法政大学出版局)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…田畠の直接耕作者で,その土地の上級得分収取権者である本所・名主・作人(作職所有者)に対し,それぞれ年貢・加地子(名主得分)・作徳(作職得分)を負担する立場にあった農民のこと。彼がその田畠に対して持つ関係は下作職(げさくしき)と表現され,通常これはすぐ上級の所職である作職の所有者からあてがわれるもので,下作人はこれに対して地子の上納と,それを怠った場合はいつ所職を取り上げられてもいたしかたない旨を誓約した下作職請文(うけぶみ)を提出した。1492年(明応1)の弥三郎下作職請文は,彼が真光院領の下地1反の下作を請け負った際のものであるが,これには〈右くだんの御下地は,望み申すにつき候てあづけ下さるる処に候。…
…中世では百姓や下人が未進をしたまま他領に移ることが禁止されていた。それでも正当な理由が認められたときには,次の収穫期まで,未進年貢等の納入延期が認められることがあったが,その場合には請文(うけぶみ)の提出が必要であった。たとえば,1306年(徳治1)4月7日に,東寺領若狭国太良荘(たらのしよう)の預所は,同荘の百姓たちの未進年貢の請文7通を領主に送っている。…
※「請文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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