請作(読み)うけさく

精選版 日本国語大辞典 「請作」の意味・読み・例文・類語

うけ‐さく【請作】

〘名〙
農民が、荘園の田地や国衙(こくが)領の公田を割り当てられて耕作すること。
※吉田文書‐延長六年(928)一二月一七日・内供奉十禅師禎果弟子等解「而彼此互請作之間、諠譁不絶」
江戸時代地主から田畑を借り耕作すること。小作。〔地方凡例録(1794)〕

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デジタル大辞泉 「請作」の意味・読み・例文・類語

うけ‐さく【請作】

平安中期以降、農民が土地を借りて耕作すること。荘園領主から権利を保証されて土地を耕作し、所定地子じしを納入する義務を負った。
江戸時代における小作。下作したさく

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改訂新版 世界大百科事典 「請作」の意味・わかりやすい解説

請作 (うけさく)

農民が国衙や荘園領主から公領・荘園の田地のあてがいをうけて耕作すること。9世紀後半から10世紀にかけて,国家の営田や荘園において,いわゆる地子田田経営がおこなわれるようになる。これは当時〈力田之輩〉とか〈有能借佃者〉〈堪百姓〉などと呼ばれる有力農民=田堵(たと)の成長が見られたのに応じて,律令国家・国衙や荘園領主が彼らに田地を割り当てて耕営せしめ,地子(じし)を弁進させた経営方式である。この場合,領主側が土地をあてがうことを〈散田(さんでん)〉と称し,これに対して田堵は当該田地を預かり相違なく地子を弁進する旨誓約した文書=請文(うけぶみ)を提出して耕営に従事したのであり,これが請作である。請作者の請作地に対する占有用益権を〈作手(つくて)/(さくて)〉と呼んだ。請作は,令制下で口分田を班給した残りの公田を年ごとに農民に割り当てて耕作させ地子をとった賃租に系譜を引くもので,契約は1年ごとに更新されるのを原則とした。したがって,請作により請作者の領主に対する身分的隷属などは生じないかわりに,その作手は本来弱く不安定で,請文を提出せず地子の未進などをおこなえば,改易されることがつねに起こりえたのである。しかし,このことは反面請作者の義務不履行がない限り,同一地が同一者によって永続的に請作される可能性を含んでおり,現実には〈年来作手〉〈相伝作手〉などと呼ばれて,作手が世襲される傾向を生んだ。請作地は請作者の貢租負担の単位,領主側からすれば収取単位を示すものとして,請作者たる田堵の名を冠して某名(みよう)と称せられるようになるが,平安末期には,からのより確実な収取をめざす領主側の欲求と,田堵の請作地私田化の意欲とがあいまって,田堵の土地緊縛と反面その私的土地占有権の強化が進行した結果,名田(みようでん)制が成立すると理解されている。中世の荘園は,一般に名主(みようしゆ)が占有用益し年貢・公事(くじ)を負担する名田部分と,一色田(いつしきでん)・散田などと称された領主直属地とから成るが,後者はやはり荘園内居住の小農民(作人)らによる請作により経営された。彼らは一方で名主に対し名田の一部をも請作する関係にあることが多かった。なお,近世にも請作の用例が残る。これは地主から土地を乞い請けて耕作すること,すなわち小作を意味する。
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百科事典マイペディア 「請作」の意味・わかりやすい解説

請作【うけさく】

荘園・公領で,農民が一定期間を定めて領主から土地をあてがわれ,一定の年貢地子(じし)の納入を条件に耕作すること。なお田堵(たと)や名主(みょうしゅ)などの有力農民はその義務の履行を契約した請文(うけぶみ)を提出する。また江戸時代の小作のこと。→小作制度作人
→関連項目田堵

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「請作」の意味・わかりやすい解説

請作
うけさく

平安時代中期以降から始まった田地請負耕作の慣行。9世紀土地私有が進展するなかで、領主は農民たちに一定の田地を請け負わせ年貢の確保を図った。荘園(しょうえん)、国衙(こくが)領を通じてみられるが、そのやり方は、毎年春季に請文(うけぶみ)(契約書)を提出させ、秋季に年貢、地子(じし)、官物(かんもつ)を納入させるというものである。契約が毎年更新されるなど、耕作権としては不安定なものだった。鎌倉時代以後広く行われたが、江戸時代に至ると現在の小作に相当する語となる。

[渡辺正樹]

『永原慶二著『日本の中世社会』(1968・岩波書店)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「請作」の解説

請作
うけさく

中世~近世の小作の一種。中世では,10世紀頃から荘園領主らと田堵(たと)・負名(ふみょう)などの耕作者との間で結ばれはじめた。古代の賃租(ちんそ)という1年有期の小作契約制を継承し,毎年領主に請料と請文を出して耕作を申請し,段別3~5斗の地子(じし)を納めた。1年ごとの契約なので,耕作者の身分は領主の束縛から自由であるが,土地用益権は不安定で,領主の優位は動かなかった。12世紀には請作経営の反復実績から安定的な永年請作に転化。さらに世襲の永年作手(さくて),そして名主職へと結実するが,その反面耕作者は領主への身分的従属を強いられた。近世では有力農民と小農民との間で結ばれた私的な小作関係をさす。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「請作」の意味・わかりやすい解説

請作
うけさく

荘園において,領主が土地を農民に割当てて耕作させたこと。農民は領主に年貢を納める義務を負った。平安時代中期以降盛んに行われたが,やがて領主から請作した農民が,さらに他の農民に請作させることも行われ,土地に関する権利関係を複雑にする一要因となった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「請作」の解説

請作
うけさく

荘園領主と田堵の間で契約された1年期限の小作関係
請作にあたっては,春に請文を提出し,秋には地子を納めた。平安時代の中ごろから盛んに行われ,1年契約はしだいに永年となり,耕作権は名主職として定着した。

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世界大百科事典(旧版)内の請作の言及

【小作制度】より

…また小農生産力の上昇は手作大経営を縮小させ,その分を小作に出して,いわゆる第2次名田小作の形態を発生させた。【安孫子 麟】
[近世小作制度の諸相]
 近世の小作については最も体系化された地方書である《地方(じかた)凡例録》では,〈自分所持の田畑を居村・他村たりとも他の百姓へ預け作らせ,又は田畑を質地に取り,元地主にても別人にても小作させ,年貢の外に余米又は入米などゝと云て,壱反に何程と作徳を極め作らするを云,元来は佃と云ものなれども,世俗小作と唱へ来る〉と述べており,預作,下作,掟作,請作,卸作,掛け放ちなどとも呼ばれた。小作地の大部分は田畑であるが,屋敷地,山林などの地目も対象となり,一部の地域では牛馬などの家畜も小作の対象となっている。…

【作人】より

…10世紀初期ごろ以後,国衙領・荘園の田畠を請作(うけさく)し,官物地子を負担したものを作人と称した。彼らの請作権を作手(つくて∥さくて)という。…

【賃租】より

…日本の律令制時代における田地・園地の賃貸借の制度。平安期にみえてくる請作(うけさく)や後世の小作と比較的類似している。日本古代では,今日と違って売買と観念される行為には2種類あり,1年を限る売買と長期間にわたる永年を限る売買があった。…

※「請作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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