日本大百科全書(ニッポニカ) 「文化類型」の意味・わかりやすい解説
文化類型
ぶんかるいけい
一時期のアメリカの文化人類学を特徴づけたものに、文化の総合的類型把握を目ざす諸研究がある。これは19世紀以降、ヨーロッパでリッケルトやシュペングラーらによって提唱された歴史・文化類型論にも影響を受けているが、その基本的性格は大きく異なっている。
リッケルトは、世界史に登場したいくつかの高文明のなかに八つの文化類型を設定し、ヨーロッパ文化はその普遍性のゆえに他の文化を破壊し、世界史において将来的役割を担うと論じた。またシュペングラーは、各文化はおのおの他から独立した自己完結的なものであるとしつつも、その盛衰には平行性がみられるとして、相互の比較により一文化の今後の予見が可能であると論じた。こうした文化類型論に対し、文化を共時的に把握し、より相対主義的な観点にたつ文化類型の考え方が、文化人類学の分野で提唱された。
こうした考え方を最初に定式化したのは、『文化の型』(1935)や日本研究の書『菊と刀』(1946)で有名なルース・ベネディクトである。彼女によると、各個別文化の特質は、それを構成する諸部分や要素の単なる集合ではなく、それらが固有の仕方で配置され相互に関係づけられた統合体configurationとしての性格にある。こうした文化的統合形成は、それぞれの文化に固有の価値によって貫かれており、それは人々の全生活領域に影響を与え、人々の態度を方向づけるものであるとした。ベネディクトは、各文化固有の統合形成を方向づけるこうした価値体系を類型的に把握しようとしたのである。たとえば北米インディアンの諸部族は、個々の文化要素に関しては共通のものが多いが、それらは各文化においておのおの独自の仕方でその統合形成に参与し、結果として異なった性格を獲得している。ニュー・メキシコ州のプエブロ・インディアンの一つズニは中庸を究極の価値とするような方向性をもった文化をもつ。権力への個人的指向は極端に抑えられ、精力的な人物は軽蔑(けいべつ)と不信で迎えられる。人当たりがよく、けっして他人の先頭にたとうとしない人物がもっとも尊敬される人物である。ズニの人々の間では、種々の儀礼は感情的な興奮を伴わず正確に繰り返されることがたいせつである。これは、文化要素の点では多くを共有しながら、個々人の権力への指向を肯定し、熱狂と感情的な高揚に価値を認める平原インディアンとは対照的である。そこでは同様な儀礼が、自らの肉体を傷つけたりする興奮状態を通じて得られる幻想的なビジョンによって、超自然的な力を個人的に獲得しようとするものになっている。文化統合の独自性を、個々の文化を特徴づけるこうした方向性を把握することによって取り出そうというのがベネディクトの方法であった。またベネディクトは、文化固有の性格は、その文化の人々のパーソナリティーの型を反映するものとも考えており、これは彼女の文化類型論に心理学的な性格を与えるものとなっている。
個別文化の統合を類型的に把握しようとする試みは、その後もクラックホーンをはじめとする多くの文化人類学者によって取り上げられているが、近年こうした方向への関心は低下しつつあるように思われる。最近では、グリッドとグループという二つの変数を軸にとった新しい類型化の試みが、メアリー・ダグラスによって提唱されている。
[濱本 満]