文学資料館(読み)ぶんがくしりょうかん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「文学資料館」の意味・わかりやすい解説

文学資料館
ぶんがくしりょうかん

文豪の出生地あるいは住居跡などに設けられた資料館。古典の文献資料は早くから各地の大学、研究所図書館などに収蔵され、国文学研究資料館がそれらをマイクロフィルムに撮影して集めているのに対して、散逸していた近代文学関係の資料も記念館・資料館・文庫に集められ、これらの施設は約400(2002年時点)に達している。おもなものに北海道ニセコ町の有島武郎(たけお)、岩手県渋民(しぶたみ)の石川啄木(たくぼく)、同花巻市の宮沢賢治、同じく高村光太郎、山形県上山(かみのやま)市の斎藤茂吉、東京都台東(たいとう)区の樋口一葉(ひぐちいちよう)、文京区の森鴎外(おうがい)、世田谷(せたがや)区の徳冨蘆花(とくとみろか)、大宅(おおや)壮一、調布市の武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)、青梅(おうめ)市の吉川英治、神奈川県横浜市の大仏(おさらぎ)次郎、静岡県長泉(ながいずみ)町駿河平の井上靖(やすし)(旭川市には井上靖記念館がある)、長野県馬籠(まごめ)の島崎藤村、福井県坂井市の中野重治(しげはる)、大阪府茨木(いばらき)市の川端康成(やすなり)、島根県松江市の小泉八雲(やくも)、愛媛県松山市の正岡子規(しき)、福岡県柳川(やながわ)市の北原白秋(はくしゅう)らの記念館がある。そのほかには、北海道旭川市の三浦綾子、宮城県大和(たいわ)町の原阿佐緒(あさお)、群馬県館林(たてばやし)市の田山花袋(かたい)、山梨県山中湖村「文学の森」内にある徳富蘇峰(そほう)、三島由紀夫、長野県上田市の池波(いけなみ)正太郎、石川県金沢市の泉鏡花(きょうか)、大阪府東大阪市の司馬遼太郎、兵庫県芦屋市の谷崎潤一郎、和歌山県新宮市の佐藤春夫、香川県高松市の菊池寛(かん)、高知県本山町の大原富枝、福岡県北九州市の火野葦平(あしへい)、松本清張(せいちょう)など。また、函館(はこだて)市立図書館の石川啄木、前橋市立図書館の萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)、東北大学図書館の夏目漱石(そうせき)文庫、東大の明治新聞雑誌文庫のように、公立図書館や大学図書館に一級のコレクションが収蔵されている場合もある。しかし近代文学関係の文献資料は、関東大震災やその後の第二次世界大戦などのため多くが焼失、散逸が極端に甚だしかったため、文学者・学者が各界からの協力を得て東京都駒場(こまば)に総合的な文学の専門図書館・博物館を兼ねた日本近代文学館(1967年開館)を実現、その後各地に、その地方の埋もれた多種多様な文献資料を収集、多数の文学者の遺稿遺品などを展示する地域文学館の建設が続いた。札幌市の北海道文学館、小樽(おたる)市立文学館、岩手県北上(きたかみ)市の詩歌文学館、東京都の俳句文学館、長野県の軽井沢高原文庫、横浜市の神奈川県立近代文学館、鎌倉市の鎌倉文学館、金沢市の石川近代文学館、熊本県立近代文学館などが代表的なものだが、その後も、青森県近代文学館、福島県いわき市立草野心平(くさのしんぺい)記念文学館、群馬県立土屋文明(ぶんめい)記念文学館、山梨県立文学館、大阪府立国際児童文学館、徳島県立文学書道館、高知県立文学館、福岡市文学館、かごしま近代文学館などが開館している。なかには世界でも一、二といわれる大型の文学館もあれば、危険な木造の館もある。個人の文学館にもまったくの観光施設だったり、資料の損傷が案じられたりする場合もあったが、しだいに改善されつつある。1995年(平成7)には、文学館どうしの情報交換や相互協力のための常設的組織「全国文学館協議会」が設立された。設立時の会長は、中村真一郎(しんいちろう)。

[小田切進]

『小田切進著『文庫へのみち――郷土の文学記念館』2冊(1981・東京新聞出版局)』『神作光一監修『全国「文庫・記念館」ガイド』(1986・講談社)』『PHP研究所編・刊『博物館徹底ガイドハンドブック』(1993)』『新人物往来社編・刊『とっておきユニーク美術館・文学館』(1996)』『藤井文子編『関西おもしろ博物館』(1996・山と渓谷社)』『榊原浩著『文学館探索』(1997・新潮社)』『中村稔著『文学館感傷紀行』(1997・新潮社)』『小松健一著『文学館抒情の旅』(1998・京都書院)』『埼玉県博物館連絡協議会編『あなたの街の博物館』(1998・幹書房)』『小松健一著『作家の風景 文学館をめぐる』2冊(2001・白石書店)』『日外アソシエーツ編集部編『新訂 人物記念館事典1 文学・歴史編』(2002・紀伊國屋書店発売)』『アミューズ著『首都圏 美術館・博物館ベストガイド』(2002・メイツ出版)』


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