書斎(文房)に備える器物。文具ともいう。狭義には、机上やその周りに備える物をいうが、広義には文房生活に必要な用具すべてを含む。
古代中国では、筆、硯(すずり)、墨、紙、筆洗(ひっせん)、筆筒(ひっとう)、筆架、水滴、墨台、文鎮(ぶんちん)、印材、印泥(いんでい)、刀子(とうす)、錐(きり)などの類のほか、文房に置く琴、屏風(びょうぶ)、書画、陶器、玉器、銅器などの愛玩(あいがん)品までも含んで文房具といった。宋(そう)代以降は硯、筆、墨、紙をとくに「文房四宝」とか「四友(しゆう)」と称して、それぞれの名品をたいせつにしてきた。
日本では、高麗(こうらい)の僧曇徴(どんちょう)が紙や墨をつくることを伝えたといわれ、古くから実用のほかに儀式や官府の用具として、硯箱、水滴、筆などが珍重された。しかし、明治以後西洋文化が輸入されてのちは、欧米の紙類、筆記具類、事務用品など、どちらかというと実用品としての文房具が一般に普及した。それに伴って文房具店も、従来書斎で用いる用具にとどまっていたものが、広く学童用品、事務用品、製図用品、家庭用紙製品、デザイン用品などを含めた広範囲のものを扱うようになった。最近では、学習文房具の範疇(はんちゅう)ではキャラクター文具(意匠にキャラクターを施したもの)や筆箱などにみられるような、構造にくふうを凝らした、いわば玩具的文房具が現れており、また事務用品では機械化に伴うパーソナルな小型電卓の出現など、文房具といわれるものの範囲がかなり広がってきている。
現在の文房具を大別すると、〔1〕万年筆、ボールペン、鉛筆などの筆記用品、〔2〕インキ、字消し、筆入れなどの筆記関連用品、〔3〕ノート、帳簿、便箋(びんせん)、封筒、アルバムなどの紙製品、〔4〕画材用品、〔5〕書道用品、〔6〕デザインを描くのに用いるデザイン用品、〔7〕定規や製図器などの製図測定用品、〔8〕糊(のり)、接着剤をはじめ画鋲(がびょう)、テープ類、各種ファイルなどの整理用品、〔9〕スタンプ台、チェックライター、ナンバリングなどの印字用品、〔10〕そろばん、電卓などの計算用品、などに分類することができるが、その種類は数千に及ぶといわれる。
また、一般には、事務用機械類(机や書架などの什器(じゅうき)類、大型計算機、複写機、印刷機など)は文房具に含めず、会社や官庁、商店などで主として事務に用いる小物類も、文房具とは別に事務用品とよんでいる。
[野沢松男]
筆記具や紙,ナイフ,はさみなど,書くことに関連する道具の総称。文具ともいう。元来は中国の文人の書斎である文房の用具の意で,すでに漢代の学者蔡邕が《筆賦》を書くなど,中国では文具に対する格別の愛着が認められる。唐代には良質の硯(すずり)ができるようになって文具愛玩も強まり,宋代には〈文房四宝〉として筆,墨,硯,紙がとくに尊重されるようになった。日本へは朝鮮を経て筆や紙が渡来したと思われ,《日本書紀》の推古天皇18年(610)の条には高句麗の僧曇徴が紙と墨の製法を伝えたとある。〈大宝律令〉には図書寮に造筆手や造墨手を置くことを定めているように,筆と墨が官庁寺社を中心に必需品として日本に定着した。さらに,日本独自の文具も生まれ,平安時代に始まる硯箱には工芸品として優れたものが多数残っている。文書を入れて運ぶための文箱(ふばこ)も日本で独自の発達をとげた(箱)。
西洋の場合,書く文字が単純ということもあって,小さな字を書く硬い筆記具が発達し,ペン,鉛筆,万年筆などが開発された。しかし,文房という概念はなく,文具ということばは生まれなかった。英語で文具に相当するのはステーショナリーstationeryであるが,語源は〈定住の店(大学の前に店のある本屋)で売っているもの〉のことであり,どちらかといえば紙製品を指す。フランス語papeterieの語源は〈紙を作ること〉であり,実際には〈事務室用品fourniture de bureau〉というほうが文具に近い。日本では,明治時代に西洋の筆記具が輸入され,やがて国産化されるようになって文具も多様化した。
文具は身近にあって,文字と結びつくことで精神作用を媒介し,また,一般に小型精巧のものが多いため,使い手の好みによる選択を受けやすく,その意味では中国に限らず趣味の道具という要素はもっている。ことに機能の単純なものほど形が自由で,西洋でもペーパーナイフや文鎮(ペーパーウェイト)などは美術品とされるものが多い。なお,タイプライターや複写機などの事務機械,油絵などの描画材も広い意味で文具に含まれる。
執筆者:小川 伸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…硯箱が作られるようになるのは平安時代後半で,早くとも10世紀前半のころと考えられる。以後,硯箱は日本の文房具の中心を占めるが,当時は漢風の文化から和様化が進み,宮廷調度の形式が整う時期であり,個々の文房具より,室内調度の一つとして文房具をセットで納置する箱が整えられた。 硯箱の文献上の初見は,988年(永延2)東大寺の奝然(ちようねん)が弟子に託して宋王室に献じた進物中の〈金銀蒔絵(まきえ)硯箱〉で,その中には金硯のほか鹿毛筆,松煙墨,金銅水瓶,鉄刀などの文房具があわせて納められていた(《宋史》日本伝)。…
※「文房具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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