(読み)ヒツ

デジタル大辞泉 「筆」の意味・読み・例文・類語

ひつ【筆】[漢字項目]

[音]ヒツ(漢) [訓]ふで
学習漢字]3年
〈ヒツ〉
ふで。一般に、文字を書く道具。「筆硯ひっけん鉛筆擱筆かくひつ硬筆紙筆執筆朱筆石筆鉄筆毛筆万年筆
文字や絵をかくこと。「筆記筆耕筆者筆順筆致筆法悪筆一筆加筆曲筆健筆主筆随筆代筆達筆遅筆特筆能筆文筆末筆漫筆略筆
ふでをとって書いたもの。「玉筆古筆真筆拙筆同筆肉筆名筆
土地の区画。「分筆
〈ふで〉「筆先筆箱筆不精絵筆一筆
[難読]土筆つくし

ふで【筆】

[名]
竹や木の柄の先に獣毛をたばねてつけ、これに墨や絵の具などをふくませて字や絵をかく道具。毛筆。また、筆記具の総称。「の運び」
書くこと。また、書いたもの。「定家のになる」
文章を書くこと。また、その文章。「で飯を食う」
[接尾]助数詞。文字や絵を書くとき、筆に墨や絵の具などをつける回数、または筆や鉛筆を紙にあてて動かす回数を数えるのに用いる。「一で書く」
[下接語]絵筆大筆かすり筆鉄漿かね付け筆・くま取り筆き筆小筆彩色筆れ筆しいの実筆朱筆初筆添え筆禿び筆椽大てんだいの筆留め筆中筆にせひと平筆べに坊主筆巻き筆面相筆焼き筆

ひつ【筆】

[名]
ふで。
筆で書くこと。また、書いたもの。「空海の
[接尾]助数詞。上に来る語によっては「ぴつ」となる。
登記簿上の土地の区画を数えるのに用いる。「1の土地」→分筆合筆がっぴつ
署名運動などで、署名の数を数えるのに用いる。「署名1万が集まる」

ふみ‐て【筆】

《「文手」の意。「ふみで」とも》ふで。
が爪は御弓の弓弭ゆはず我が毛らはみ―はやし」〈・三八八五〉

ふん‐で【筆】

《「ふみて」の音変化》ふで。
「―の力失せにけり」〈地蔵菩薩霊験記・一一〉

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精選版 日本国語大辞典 「筆」の意味・読み・例文・類語

ふで【筆】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「ふみて(筆)」から転じた「ふんで」の変化したもの )
    1. 竹や木の柄(え)の先に、羊、狸、兎、鹿、馬などの毛を穂状に束ねて取りつけたもの。墨汁や絵の具を含ませて文字や絵画などを書くのに用いる。毛筆。また、筆記具の総称。
      1. [初出の実例]「ふでのさきうち見つつ、こまやかに書きやすらひ給へるいとよし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)野分)
    2. 筆を用いて書くこと。また、その書いたものや筆の使い方。
      1. [初出の実例]「いといたうふですみたる気色ありて、書きなし給へり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)梅枝)
      2. 「エニ カクトモ、fudenimo(フデニモ) ヲヨバヌ ケイキニ ジョウジテ」(出典:天草本伊曾保(1593)大海と、野人の事)
    3. 文章をつづること。また、その文章。
      1. [初出の実例]「能を書くに、序破急を書くとて筆斗(ばかり)に書くは悪き也」(出典:申楽談儀(1430)能書く様、その二)
      2. 「筆で飯を喰ふ考は無い」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉貧書生)
    4. 植物「つくし(土筆)」の異称。
      1. [初出の実例]「地利を習って筆を買ふ野掛道」(出典:雑俳・柳多留‐四三(1808))
    5. 男根の異称。
      1. [初出の実例]「世の親をとはばうなづけ船と筆」(出典:雑俳・楊梅(1702))
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 ものを書く時、筆や鉛筆を紙にあてて動かす回数をかぞえる語。「ひと筆で描く」

筆の語誌

古代の筆は、紙を巻いて作った芯(しん)のまわりに、獣の毛をおおったもので、現在のものより穂は短かった。筆は貴重品であり、また、正倉院の遺物から、長さはいろいろで、書体に応じて使い分けられていたことが推定されている。


ふみ‐て【筆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 文(ふみ)(て)で、文を書くものの意。「ふみで」とも ) 「ふで(筆)」の古語。
    1. [初出の実例]「吾が爪は 御弓の弓弭 吾が毛らは 御筆(ふみて)はやし」(出典:万葉集(8C後)一六・三八八五)
    2. 「筆 張華博物志云蒙恬造筆〈古文作 布美天〉」(出典:十巻本和名抄(934頃)五)

ひつ【筆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ふで。文字や絵画をかく道具。
  3. ふでのあと。また、ふでで書いたもの。
    1. [初出の実例]「右九経九流、三玄三史、七略七代、若文、若筆等書中、若音、若訓、或句読、或通義」(出典:性霊集‐一〇(1079)綜芸種智院式)
  4. 田畑・宅地などの土地の一区画。古く、検地帳に、その場所・種目・面積・所有者などを一行に書き下したところからいう。

ふん‐で【筆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ふみて(筆)」の変化した語。「ふむて」とも表記 ) =ふで(筆)
    1. [初出の実例]「率爾に輙く毫(フムテ)を含むことを事とす」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八)

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普及版 字通 「筆」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 12画

[字音] ヒツ
[字訓] ふで・かく

[説文解字]

[字形] 会意
竹+聿(いつ)。聿は筆を手にもつ形。〔説文〕三下に「秦、之れを筆と謂ふ。聿竹に從ふ」とあり、前条の聿に、「楚にては之れを聿(いつ)と謂ひ、にては之れを不律と謂ひ、燕にては之れを弗(ふつ)と謂ふ」とみえる。筆は秦の恬(もうてん)にはじまるとされているが、甲骨文に朱書・墨書の字が残されており、契刻のときにも下書きして刻したことが知られている。近年出土の晋の「侯馬盟書」も筆で書かれている。遺品としては、居延木簡に用いた筆がある。

[訓義]
1. ふで。
2. ふでにする、かく。
3. 詩文を作る。
4. 韻のある詩に対して、無韻の文をいう。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕筆 古に作る。布美天(ふみて) 〔名義抄〕筆 フム・フミテ・ノブ・タタス・フデ

[熟語]
筆意・筆苑・筆架・筆下・筆禍・筆花・筆快・筆画・筆格・筆閣・筆・筆竿・筆簡・筆管・筆記・筆脚・筆勲・筆傑・筆研・筆硯・筆・筆健・筆工・筆勾・筆耕・筆毫・筆才・筆彩・筆削・筆札・筆算・筆紙・筆師・筆潤・筆匠・筆牀・筆蹤・筆仗・筆陣・筆髄・筆勢・筆聖・筆精・筆跡・筆迹・筆舌・筆尖・筆洗・筆・筆奏・筆端・筆断・筆談・筆致・筆楮・筆塚・筆冢・筆陳・筆底・筆刀・筆套・筆答・筆筒・筆榻・筆・筆頭・筆到・筆牘・筆禿・筆・筆伐・筆文・筆鋒・筆墨・筆吏・筆力・筆路・筆・筆録・筆論
[下接語]
悪筆・握筆・一筆・逸筆・引筆・運筆・筆・鋭筆・鉛筆・枉筆・下筆・加筆・佳筆・呵筆・荷筆・筆・画筆・閣筆・擱筆・銜筆・奇筆・起筆・揮筆・偽筆・巨筆・狂筆・曲筆・勁筆・筆・健筆・古筆・枯筆・硬筆・鴻筆・才筆・彩筆・載筆・灑筆・雑筆・史筆・紙筆・舐筆・肆筆・試筆・詩筆・賜筆・自筆・執筆・手筆・主筆・朱筆・濡筆・潤筆・冗筆・宸筆・真筆・親筆・水筆・酔筆・随筆・省筆・石筆・拙筆・絶筆・仙筆・洗筆・染筆・走筆・側筆・代筆・筆・達筆・竹筆・直筆・鉄筆・刀筆・投筆・禿筆・特筆・肉筆・任筆・能筆・敗筆・白筆・飛筆・布筆・舞筆・焚筆・奮筆・文筆・秉筆・補筆・木筆・墨筆・末筆・漫筆・妙筆・無筆・名筆・毛筆・右筆・筆・雄筆・用筆・落筆・乱筆・良筆・麗筆・老筆・弄筆

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改訂新版 世界大百科事典 「筆」の意味・わかりやすい解説

筆 (ふで)

文字や絵をかくための文具。一般には穂に墨や絵具をふくませて用いる毛筆をさすが,広義には万年筆やボールペンなど内部にインキを納めるものや,ペン,鉛筆などの筆記具全般をも含めて呼ぶことがある。西洋では絵筆と筆記用のペンは明確に分かれて発達したが,東洋ではもっぱら毛筆が用いられ,用途によって大小,形態ともさまざまなものが作られた。

 毛筆は毛の部分すなわち筆毫または穂と,管の部分すなわち筆管または軸から成る。筆毫にはウサギ,羊,鹿,馬,犬,タヌキ,キツネ,鶏,キジ,カモシカ,人髪など動物の毛または羽のほか,竹,藁(わら),茅(かや)など植物性の繊維も用いられる。2種以上の毛を合わせて作ったものを兼毫という。筆管は竹についで木が多く,玉,陶,骨,角,金,銀,石などが用いられ,しばしば美しい彫刻や彩色,漆などが施される。筆毫には,心(しん)を建てて紙を巻き,その周囲に毛を植えていく巻筆(まきふで)または有心筆と,心のないねりまぜ式の水筆または無心筆とがある。

筆の字は甲骨文や金文にも見え(),手で管をもつ姿をかたどっている。〈聿(いつ)〉は竹冠のない筆の字で,《説文解字》には〈書くのに用いるもの〉と説明されている。《説文》の〈筆〉の字を見ると,秦ではこれを筆というと解説され,筆の字は元来竹冠がなく,秦以後〈筆〉の字が一般化したと考えられる。《博物志》や《古今注》によると,秦の蒙恬(もうてん)が初めて筆を作ったという。しかし筆またはそれに類したものは,それ以前からすでに存在したので,彼はむしろ筆の改良に貢献した人物とみるべきであろう。

 新石器時代の彩陶の文字や殷墟から出土した陶片の文字は,毛筆によって書かれ,甲骨文も毛筆によって下書きされたと推定される。1954年,湖南省長沙近郊の左家公山で発掘された戦国時代の楚の墓から兎毫の筆が出土し,〈長沙筆〉と名づけられた。これが中国現存最古の筆である。73年湖北省江陵県鳳凰山168号漢墓(墓主嬰遂は前167年5月に埋葬)から,,削刀とともに竹管の筆が発掘され,75年にも同じ鳳凰山167号漢墓から竹管の筆が出土した。いずれも筆を収める収筆管が付随していた。これより前,1930年から31年にかけて西北科学考査団がエチナ川流域のカラ・ホト付近(内モンゴル自治区)で漢代の居延県城の遺址を発掘した際,木簡とともに筆が出土し,〈居延筆〉と名づけられた。これは前漢末・後漢初のころのものと推定され,筆管は木を四つ割にして毛を挟み,麻糸でしばり,根元を漆で固めたものである。このほか漢代の筆としては,甘粛省武威県出土の〈武威筆〉(竹管のみ),朝鮮平壌付近の漢代楽浪郡出土の〈楽浪筆〉(穂のみ)などが知られている。筆管もすでに後漢のころから斑竹を用いたり,宝玉をちりばめたものが作られた。

 魏晋南北朝時代の筆の実物はほとんど残されていないが,魏の韋誕の《筆墨法》や晋の成公綏(すい)の〈棄筆賦〉その他の文献によると,漢代につづいて有心筆が広く用いられたと考えられる。隋の僧智永は多くの千字文を書いたことで知られ,彼はちびた筆を瘞(うず)めて〈退筆塚〉を作ったという。

 これが筆塚の始まりである。唐代には初唐の三大家(欧陽詢,虞世南,褚遂良(ちよすいりよう))をはじめ多くの書家が現れ,それぞれの好みにあった筆を用いたと思われるが,大勢としては漢代以来の有心筆が多く用いられたとみられる。ただ盛唐の李陽冰の《筆法訣》には〈散卓〉すなわち無心筆の語があり,無心筆はこのころから五代にかけて増加の趨勢をたどった。そして宋代になると,煕寧(1068-77)の後,〈世始めて散卓筆を用い其の風一変す〉(《避書録話》)というように,有心筆から無心筆へ,剛毛から柔毛へと大きく移行していったと考えられる。宋代には欧陽修,蘇軾(そしよく),黄庭堅,米芾(べいふつ),蔡襄ら高名な文人,書家が競って精妙な文房具を求め,蘇易簡の《文房四譜》など文房清供に関する著述が刊行された。それにともない,諸葛高などすぐれた筆匠が現れ,彼らの製筆がもてはやされた。元代の筆匠としては呉興(浙江省湖州)の馮応科(ふうおうか)が名高く,その製筆は趙孟頫(ちようもうふ),銭選とともに三絶と称された。

 明代は文房清玩(文房四宝)の趣味が最も高まった時代で,端渓水巌の開削,程君房,方于魯ら著名な墨匠の輩出にともない,筆もそれらに適合した柔毛の羊毫を愛用するものがしだいに増加した。特に明末・清初に流行した長条幅の連綿草には,含墨量の多い弾力性のある筆が多く用いられたであろう。またこの時代には,さまざまな技巧をこらして筆管を装飾した〈飾筆〉が文人の間で喜ばれた。このような一種の装飾趣味は清代にもうけつがれ,とくに乾隆帝の豪華好みは文房具全般にも及び,明代特有の大らかさに代わって,いっそう華麗精緻なものになった。いっぽう,文人,書家の間ではむしろ筆の機能性を重んずる傾向があり,それに応ずる多くの筆匠が現れた。この時代には,筆に関する代表的な著録として,梁同書の《筆史》が刊行された。清末から中華民国時代(1945まで)にかけて喧伝された筆匠,筆店として曹素功,胡開文,周虎臣,賀蓮青,徐葆三,邵芸巌(しよううんがん),戴月斬などがあった。文化大革命(1966)以後は企業合同が行われたが,四人組追放後は,解放以前の名人芸を尊ぶ風潮が出てきた。
文房四宝

日本の筆は最初中国や朝鮮から伝えられた。《日本書紀》応神10年2月条によれば,百済の王仁(わに)が《論語》と《千字文》を貢進したとする。このうち《千字文》は手習用を主眼としたので,筆は5世紀ごろにはすでに一部の人々に使われていたとみられる。また同推古18年(610)3月条には高麗(高句麗)僧曇徴(どんちよう)が紙墨の製法を伝えたとされ,製筆の法もこのとき伝えられたと考えられる。奈良時代には写経や公文書を作成するために多くの筆が必要となり,中務(なかつかさ)省図書寮内に造筆手10人が置かれ,諸国から貢進される筆も少なくなかった。正倉院の中倉には〈天平筆〉17枝と〈天平宝物筆〉1枝が伝存する。これらの用毛はウサギ,鹿,タヌキなどを主とし,筆管は斑竹,仮(げ)斑竹,篠竹(しのだけ),煤竹(すすだけ)などに美しい装飾が施されている。すべて巻心造りで,当時の中国の製法を伝え,形状は〈雀頭筆〉と呼ばれる短鋒が多い。

 平安時代になると,写経の需要は漸減し,代わって詩歌や尺牘(せきとく)の応酬が盛んになった。806年(大同1)空海は唐から帰朝すると,唐様の製筆法を伝えた。その後,仮名の成立,漢字の和様化は筆の改良と並行しておし進められた。鎌倉時代になって武士が台頭し,豪健闊達(かつたつ)な墨跡が好まれたが,それらの筆は,馬,タヌキなどの大筆が多く用いられたと思われる。鎌倉鶴岡八幡宮所蔵の〈籬菊螺鈿蒔絵硯筥〉に収められた菊模様の筆は当時の華麗な技法を伝える逸器である。江戸時代になると,本阿弥光悦が筆屋妙喜を重用して自分の好みの筆を作らせた。1654年(承応3)隠元の来日を機として長崎を門戸とする明・清との交流が始まり,筆も舶載されるようになった。肉太で丸味のある黄檗(おうばく)系の書は多く羊毫筆から生まれたものであろう。また藤野又六,雲平など専門の筆匠のほか,下級武士や浪人たちも〈筆結(ゆ)い〉の内職に携わるものが増え,技を競った結果,製品の質も向上した。一方では庶民教育としての寺子屋が普及するとともに,簡便低廉な〈椎の実筆〉〈勝守〉など手習用の筆が大量に生産された。元禄期の唐様書家細井広沢(こうたく)は《思貽斎管城二譜(しいさいかんじようにふ)》を著し,所蔵の唐筆や自己の体験をもとに製筆法を説き,唐様の無心筆を考案した。

 幕末の市河米庵(べいあん)も蔵筆200余枝の図録《米庵蔵筆譜》(1834)をはじめ,《米庵墨談》正・続,《小山林堂書画文房図録》などを刊行し,文房具に関する研究を深めた。製墨で有名な奈良の古梅園が京都に店を出し,薬物薫香を業とした鳩居堂が,筆の販売にも携わるようになった。明治になって学制が改革されると,寺子屋で行われてきた通俗な御家(おいえ)流にかわって雄勁な唐様が採用され,用筆も巻心を廃して水筆(無心筆)が多く使われるようになった。1880年楊守敬が来日して北派の書を鼓吹し,日下部鳴鶴らは長鋒ないし中鋒の純羊毫水筆を愛用した。このほか勝木平造が天平筆を復元し,また高木寿穎が清人筆匠馮畊三(ふうこうさん)を招き,梁同書の《筆史》を翻刻し,筆祖蒙恬将軍碑を建立したことなどが注目される。明治,大正,昭和と時代が下るにつれて,実用面では万年筆や鉛筆などが広く普及したが,一方では展覧会や学校教育の面で書道はますます活況を呈し,筆の需要も伸びつつある。なお,筆に関する専著として最近,木村陽山《筆》が刊行された。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「筆」の意味・わかりやすい解説


ふで

文字や絵をかく道具で、一般には穂に獣毛を用いる。筆記具としての筆は、鉛筆、万年筆などもあるため、とくに毛筆とよぶことも多い。また「花の木」の異称もある。

[植村和堂]

歴史

毛筆の創始は文献上では中国の秦(しん)(前221~前206)の蒙恬(もうてん)将軍とされ、その功績により管城(かんじょう)に任ぜられたことから、筆には「管城」の異名が伝えられるほどであるが、1954年に中国湖南省長沙(ちょうさ)市左家公山の第15号墓から発掘された竹製の行李(こうり)のなかに、天秤(てんびん)、竹簡(ちくかん)、銅刀などとともに、筆筒に入れた筆が発見された。この墓は秦に滅ぼされた楚(そ)の国の墓であるところから、この兎毫(とごう)(兎(うさぎ)の毛)の「長沙(ちょうさ)筆」が現在判明している最古のものといわれる。蒙恬将軍の筆に近い形とみられるものに「居延(きょえん)筆」がある。これは1930~1931年に西北科学考査団がエチナ川上流の居延地区(内モンゴル自治区)で多くの木簡とともに発掘したもので、木簡から推定して紀元前80~前75年ごろと考えられる。また1932年には漢代(前2~後3世紀)の楽浪(らくろう)の遺跡、貞柏里(ていはくり)121号木槨(もっかく)古墳からも毛筆が出土している。長沙筆は管の長さ約16.6センチメートル、直径約0.6センチメートル、鋒(ほう)の長さ約2.5センチメートル、居延筆は木軸を四つ割りにした一端に穂を挿し込んで麻糸で縛り、根元を漆で固めてあり、管の長さ約21センチメートル、直径約0.7センチメートル、鋒の長さ約1.4センチメートルで、剛毛の芯(しん)の周囲に羊毛らしい上被がかけられている。「楽浪筆」は時代も製法も居延筆に近い。

 遺品からみた筆の歴史は以上のとおりであるが、殷(いん)代(前16~前13世紀)の亀甲(きっこう)獣骨文とともに発掘された白色土器に、毛筆でなければ描けないと思われる文様があったり、甲骨文のなかには銅刀で文字を刻み込む前に毛筆で下書きしたと思われるものもある。またさらに古い新石器時代末期の竜山(りゅうざん)期や仰韶(ぎょうしょう)期の彩陶の文様も筆で描かれたと推定され、これによれば毛筆の起源は前2500年以前にまでさかのぼることになる。

 日本の筆は中国、朝鮮から伝えられ、5世紀ごろにはすでに使われていたものと推察される(『日本書紀』に4世紀末来朝の百済(くだら)の王仁(わに)が『論語』10巻、『千字文』1巻を進貢したとみえる)が、7世紀初頭、高麗僧により紙墨の製法がもたらされていることから、製筆法もほぼ同じころ招来されたものと思われる。

[植村和堂]

種類

大きさから分けると「大筆(おおふで)」「中筆(ちゅうふで)」「小筆(こふで)(細筆(ほそふで))」となる。大筆のなかには「提斗(ていと)筆」とよばれる超大筆もある。穂の形からは「長鋒(ちょうほう)筆」「短鋒筆」「面相(めんそう)筆」「雀頭(じゃくとう)筆」(雀(すずめ)の頭のような形の短鋒の筆)、「柳葉(やなぎば)筆」「捌(さば)き筆」「水筆(すいひつ)」などの別があり、また穂先の素材によって「毛筆」「藁筆(わらふで)」「草(くさ)筆」「木筆」「槿(むくげ)筆」などに分けられる。毛筆に使われる獣毛は兎、狸(たぬき)、鹿(しか)、羊、馬などが普通だが、猫、鼬(いたち)、貂(てん)、鼠(ねずみ)、狼(おおかみ)、栗鼠(りす)、狐(きつね)、猿、水牛、熊(くま)、豚、馴鹿(となかい)なども使われ、ときには胎髪筆もある。兎の毛は紫毫(しごう)ともよばれて、非常に古くから文献にみえる。また「兼毫(けんごう)」というのは2種以上の原毛を混ぜ合わせたもののことで、七紫三羊、五紫五羊などは兎の毛と羊の毛を混用した例であるが、現在の日本ではほとんど得られず、もっぱら中国でつくられる。獣毛は冬毛が珍重されるが、鹿毛だけは夏毛も喜ばれている。変わったところでは、王羲之(おうぎし)が『蘭亭序(らんていじょ)』を書くのに鼠のひげを集めた鼠鬚筆(そしゅひつ)を使ったという伝説がある。

[植村和堂]

製法

製法上からは、穂先をふのりで固めた「水筆」、固めずにばらばらのままにした「捌き筆」、古い形態として心柱(しんちゅう)を紙で巻いた上に上毛(うわげ)をかけた「巻筆(まきふで)」に大別される。水筆を例に製法の概要を述べると、まず原毛の癖直し、脱脂のあと、「毛拵(けごしら)え」した毛を手板(ていた)でそろえ、「水固め」をして命毛(いのちげ)(穂の芯になる長い毛)を出す。その周りに薄く毛を巻き「のどづけ」をして心柱をつくる。心柱の上に畑毛(はたげ)を添えて「真立(しんた)て」をしたものに「上毛かけ」をして「苧締(おじ)め」をし、軸に「すげ込み」をする。軸の「面取り」「くり込み」をし、漆や接着剤などで穂をすげ、さらにふのり、みょうばんの液中に浸して絞る。そのうえで軸に銘を彫り、鞘(さや)をして仕上げとなる。

 新しい筆を下ろすときは、形を整えるためにつけたふのりは洗い落とさなければならない。また筆の良否を見分けるのには、尖(せん)(穂先が鋭くて乱れのないこと)、斉(せい)(穂先を広げたときにきれいにそろっていること)、円(えん)(穂に水や墨を含ませたとき円満な姿であること)、健(けん)(充実した線が破綻(はたん)なく書けること)の4条件を参考にするとよい。さらに、保存するときは、穂の虫害を防ぐため防虫剤を用いることが望ましい。

[植村和堂]

絵画用の筆

絵筆の歴史はほとんど絵画の起源と同時代にまでさかのぼるが、木の枝や草の茎をささら状にしたものが原型と考えられ、古代エジプトでは葦(あし)の繊維をほぐして束ねたものが使用されていた。今日のような獣毛も、おそらく先史時代から利用されていたものと推測される。中国や日本では書の筆も絵筆もほとんどが毛筆であるが、西洋では、絵画用の毛筆と筆記用の硬筆(ペン)とは、はっきり分かれて発達した。

[長谷川三郎]

西洋画の筆

大別して豚毛の剛毛筆と貂(てん)、鼬(いたち)に代表される柔毛筆があり、今日ではナイロン製の剛毛筆もある。獣毛は毛先の形をそのまま生かして筆の穂先にし、古くは鳥の羽根の羽管(軸)が毛をまとめる口金がわりに使われたが、いまでは貂などの高級で小さな特殊なもの以外は、ほとんど金属製である。大きさは通常0(ゼロ)号から12号まであるが、ごく細いものや幅広のもの、あるいは穂先の長いものもある。

〔1〕豚毛の剛毛筆 豚の背毛の一部を用いてつくられた油彩用のもっとも標準的な筆。19世紀中葉まではほとんど丸筆だけであったが、今日では大別して次の4種の型の筆がつくられている。(1)伝統的な丸筆、(2)平筆(長さが幅の2.5倍)、(3)ブライト型(平筆の一種で、通常の平筆より穂先が短く、毛が薄くて剛(こわ)い)、(4)フィルバート型(丸筆を平たくした形)。

〔2〕柔毛の筆 柔らかくしなやかな獣毛製の筆は、水彩画やテンペラ画のみならず、古典的な油彩画にも用いられた。なかでもコリンスキーとよばれる最高級品は、シベリア産の赤貂(レッド・セーブル)の毛だけでできており、腰の強さと弾力(復原力)の兼ね合いに優れ、穂先が繊細で鋭いという特徴がある。これは、中間で太くなり、先端で鋭くとがっている独特の毛の形によって生ずる効果である。ほかに白鼬、穴熊(あなぐま)、栗鼠(りす)(「らくだ毛」とよばれているものは栗鼠の尾の毛)などの毛も使われている。また牛の耳からとる牛毛は、セーブルより剛くて弾力に富み、セーブルと混ぜて水彩筆用に使われる。

〔3〕ナイロン筆 アクリル絵の具などのポリマー樹脂絵の具のためにつくられたナイロン製の剛毛筆。アクリル絵の具は速乾性なので、水に浸して筆の凝固を防がなければならないため、水に強い材料でつくる必要がある。

[長谷川三郎]

日本画の筆

江戸末期ごろまでは書の筆ととくに異ならなかったが、明治になって西洋絵画技法の影響と、新しい日本画の復興運動からさまざまな絵筆が考案された。材料には山羊、鹿、兎、鼬、貂、狸などが使われ、それぞれの毛の性質を生かし、各種組み合わせることで用にかなった筆がつくられ、用途別の名称がある。(1)付立(つけたて)筆 線描、没骨(もっこつ)のいずれにも使える便利な筆。(2)線描筆 細太、曲直のいずれも自在に引けるようくふうされたもっとも日本的な筆。(3)面相(めんそう)筆 特別に細い線を引くためのもの。(4)彩色筆 彩色用のほか幅広く役だち、鹿毛(かもう)と羊毛の混合が多い。以上は穂先のとがった筆で、ほかに先の平らなものとして、(5)隅取(くまどり)筆、(6)平(ひら)筆、(7)連筆(れんぴつ)、(8)刷毛(はけ)などがある。

[長谷川三郎]

『榊莫山著『文房四宝 筆の話』(1981・角川書店)』『木村陽山著『筆』(1975・大学堂書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「筆」の意味・わかりやすい解説


ひつ

土地の登記単位で土地の区画をいう。(1) 合筆(がっぴつ) 数筆の土地を合わせて 1筆にすること。分筆に対する。なお,数個の建物を登記上 1個の建物とすることは合併という。(2) 分筆(ぶんぴつ) 登記記録の表題部に,1筆の土地として表示されている土地を数筆の土地に分けること。合筆に対する語。分筆または合筆の登記は,表題部所有者または所有権の登記名義人の申請によってなされるのが原則である(不動産登記法39条1項)。ただし,1筆の土地の一部が別の地目となり,または地番区域を異にするにいたったときなどは,登記官が職権で,分筆または合筆の登記をする(39条2,3項)。


ふで

文字や絵をかく文房具の一つ。墨,顔料をつける穂の部分と,手に持つ軸部から成る。書道用のものは穂の材質によって毛筆,竹筆,草筆などの別があり,毛筆にはうさぎ,たぬき,しか,馬,犬,きつね,羊などの毛が用いられる。また軸は竹製が多い。中国では戦国時代の長沙筆,漢代の居延筆が古く,日本では正倉院に唐代の形式を伝える奈良時代の遺品がある。

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百科事典マイペディア 「筆」の意味・わかりやすい解説

筆【ふで】

紙,墨,硯(すずり)とともに文房四宝の一つ。中国殷(いん)代にあったことが知られ,現存するものでは,戦国時代楚王の墳墓から発見された長沙筆が最も古い。筆は毫(ごう)と筆管(軸)からなり,毫は古来兎毫が賞美されているが,後世羊毫,狼毫,狸毫など諸種のものが発達し,筆管にも楼閣人物を彫刻するなど意匠をこらしたものが現れた。湖州に産する名筆を湖筆といい,徽(き)墨とともに尊重。日本には紙とともに大陸から伝来したと考えられ,正倉院に伝わる8世紀のものが最も古い。
→関連項目矢立

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【日本画】より

…念紙は下図を本画用の基底材料に写すための紙である。薄く丈夫な和紙に松煙を酒などで溶いてよくしみ込ませたもので,下図の下に置き,上から骨筆でなぞって基底物に写す。その後,墨などでさらに絵描きし,残った松煙などを羽ぼうきではらう。…

【ブラシ】より

…日本語の〈刷毛〉に相当し,ブラシにも刷子の字をあてることがある。《和名抄》では髤筆と書いて〈はけ〉と読ませ,漆を塗るものと定義している。刷毛と書くのは和製熟語。…

※「筆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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