一方において後期資本主義体制下における大規模な構造転換に直面し,他方,現存する社会主義体制下における抑圧的現実を目のあたりにしながらも,いぜんとして古色蒼然たる教条に固執し神格化された政治的権威に盲従している既成左翼old leftのあり方を反省し,この変化しベールのはがれた現実状況に見合った社会変革と人間変革の同時達成をはかろうとする運動勢力のことを新左翼(ニューレフト)という。したがって,それは〈社会的ケインズ主義〉の採用によって成立した〈豊かな社会〉と〈福祉国家〉のもとにおける労働者階級の体制内存在への転換というきびしい現実を見据えると同時に,官僚制化し権威主義化したスターリン主義的体制下における〈人間主義的社会主義〉の衰微という現実にも注目するという複眼構造をもった左翼運動である。
こうした自己意識をもった運動体が登場したのは,1950年代のフランスとイギリスにおいてであった。両者とも,経済決定主義的な〈絶対的窮乏化〉の教義の繰返しをやめて,〈豊かな社会〉における新たな人間的悲惨として疎外や物象化の問題を取り上げ,友愛,共同体,人間変革などの新たな解放の道を提示した。しかし,運動の担い手が知識人にかたよっていたため,思想や文化運動のレベルにとどまり,政治集団にまで発展することはできなかった。新左翼が政治集団として登場したのは,60年代中葉のアメリカとドイツにおいてであった。それらはいずれも体制内化した労働者階級の現実をふまえ,〈代用プロレタリアート〉あるいは〈階級としての青年〉と自己規定した学生ラディカルを主体としていた(アメリカの場合は〈民主社会をめざす学生組織〉,ドイツの場合は〈ドイツ社会主義学生同盟〉)。両者は,表現の違いこそあれ,議会外的反対勢力として既成政治勢力と全面的に対峙し,〈対抗コミュニティ〉やコミューンを根拠地にして街頭での非暴力直接行動や市民的不服従を展開するかたわら,運動実践をとおして自立的主体的なライフスタイルの確立をめざすものだった。そのかぎりでは,社会変革と人間変革の結合した運動といえる。しかし,その存在を脅威と感じるようになった体制によって,〈法と秩序〉路線が強行されるに及び,新左翼勢力の内部分裂が進行することになった。一つは,危機意識をつのらせ,地下抵抗運動からさらにはテロリズム戦術の採用にまで進んでいった政治主義的グループであり,他の一つは,人間変革を対抗文化運動のなかの〈新宗教運動〉に求めていったライフスタイル派である。そして,前者が政治的に弾圧され,後者が無害化されていくなかで,政治勢力としての新左翼は70年代中葉に姿を消した。しかし,その理念はその後も生きつづけ,エコロジー,〈市民社会〉,底辺民主主義などを唱道する今日のドイツの〈緑の党〉などに継承されている。一方,フランスでは1968年,パリを中心に展開された学生,労働者,革新的市民による〈五月革命〉が起こった。日本の新左翼運動も1968,69年に全国大学闘争の主体として,ノンセクト中心の全共闘が,直接民主主義の重視,個人の主体性の強調,インターナショナリズムへの志向を特色として,強力な運動体となった。そして大学闘争後には,反戦・平和運動,反公害運動など市民運動の担い手となっている。
執筆者:高橋 徹
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「ニュー・レフト」のページをご覧ください。
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…〈すべてを権威的把握におしこめてしまう言語からの解放の第一歩は,どこかへ行けば言語の外になってしまうような場所があるという実感をもつこと〉(D.ラミス)だったから,マリファナやLSDなどのドラッグによる〈トリップ〉,ロック・ミュージック,サイキデリック・アート,非正統的な諸宗教が空前の流行をよんだ。それらに媒介されて〈拡張された〉意識によって,テクノクラシーのもとで支配的な権威を与えられている〈客観的〉意識から解放された〈著しく個人至上主義的な共同体感覚〉に基盤を置くニューレフト(新左翼),ヒッピー,コミューン生活者によって対抗文化は担われた。 〈対抗文化〉という概念を社会的に確立したローザクTheodore Roszakの《対抗文化の形成》(1968)によれば,その核心にあるのは近代合理主義のもたらした科学的世界観を相対化する,シャーマニズム的な世界観の導入だった。…
※「新左翼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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