新しく用いられるようになった単語。流行語は多く新語であるが,必ずしも新語とは限らない。新語は語彙(ごい)体系のなかにまだ完全には納まっていない単語で,そのため人によって理解の程度がひどく違い,ときにコミュニケーションをさまたげる。新語はもっぱら名詞であり,しかも普通名詞に限られる。新しい外来語はすべて新語である。在来語の体系内に入り込めば新語でなくなる。外来語も古くなれば新語でなくなる。〈ビール〉は現代では新語ではないが,18世紀にオランダ語bierから借用したときは新語であった。
新語が生まれるきっかけは四つある。(1)新しい物や事がらが生まれて,それをことばで表すことが必要になった場合(新物(しんぶつ)新語)。例,〈ワープロ〉〈国電(←省線)〉〈人工授精〉〈同定化(←identification)〉。(2)在来の物や事がらに新しいイメージを与えるために,それを表すことばを新しくすることが必要になった場合(イメージづくり)。例,〈フレッシュマン(←新入生,新人)〉〈熟年(←中高年)〉。(3)いわゆる〈差別語〉やあからさまな表現を避けるために,またタブーのために,在来の単語に代わる新しい単語を採用するか,つくるかすることが必要になった場合。例,〈お手伝いさん(←女中)〉〈発展途上国(←低開発国)〉〈ターゲット(←(攻撃の)まと,売り込む相手)〉。(4)言語政策・言語工学上言いかえが必要になった場合(言いかえ)。例,〈推理小説(←探偵小説)〉〈世論(よろん)(←輿論(よろん))〉(2例とも,かつての当用漢字表による制限のため),〈私立(わたくしりつ)(←私立(しりつ))〉(同音語との混同を避けるため)。新語が新語として問題になるのは,以上の四つの場合の特に(1)(2)である。(3)(4)はやむをえず新しい単語をつくり出す場合であったが,(1)(2)は積極的に新しい単語をつくる場合である。実際には,きっかけは複合してあらわれる。国鉄の〈グリーン車〉は一等・二等・三等車の区別をなくして一等・二等車となっていたところ,いわばかつての一等・二等車に相当するものを表すためにつくった単語という点では(1)に該当し,等級の区別をあからさまに出さないために,意味が多少あいまいな〈グリーンgreen〉という外来語を使ったという点では(3)に該当し,外来語を使ったという点では(2)に該当するといえる。
新語をつくる手段には,大きく分けて(1)外来語を採用する,(2)在来語を操作する,(3)創作する,の三つがある。(3)は,限られた集団内で臨時につくられることはあっても,一般社会にはほとんどない。注目すべきなのは(2)で,これには複合(〈人工授精(←人工+授精)〉),派生(〈お手伝いさん(←お手伝い)〉),省略(〈国電(←国鉄電車)〉)などの方法がある。
→語形成
執筆者:柴田 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
新しくつくられたり、外国語から新たに取り入れられたりした語で、社会的習慣として確立したもの。そのときどきの人々の関心・興味などに適合して、爆発的に使用される新語は、とくに流行語とよばれるが、その多くは定着することなく忘れ去られてしまう。新語が生ずる理由としては、大きく三つの場合が考えられる。
(1)社会的理由 新しい事物・概念が生じて、それを表す語が新たに必要となった場合(コンピュータ、水爆、新幹線、公害など)。
(2)心理的理由 感じのよい語形に変えたり、新しいイメージを生み出そうとして語形を変えたり、不吉なことや不潔なことを連想させないような語形にしたりする場合(床屋→理髪店→バーバー、寝巻→パジャマ、便所→トイレ、閉会→お開き、すり鉢→当たり鉢など)。
(3)言語的理由 誤読が一般化したり、漢字制限などで新しい語形が決定されたりした場合(一所懸命→一生懸命、独擅場(どくせんじょう)→独壇場(どくだんじょう)、涜職(とくしょく)→汚職、輿論(よろん)→世論など)。
新語をつくるには、既存の体系にまったく依存せずにつくる場合と、既存の語彙(ごい)体系に基づいてつくる場合とがあるが、前者の場合はまれで、ピンポンのように音象徴によるのがほとんどである。後者には、外国語から借用したもの(コンサート、ゴルフなど)、古語や廃語を再生したもの(経済、常識など)、既存の語を結び付けたり変化させたりしたもの(あんパン、カツ丼(どん)、ナイター、バイトなど)などがある。幕末・明治初期には膨大な漢語が新造されたが、そのほとんどは旧来の漢語の体系に基づくものである。それらのなかには「広告、金額、熱望、哲学」など今日でもよく用いられるものも多い。この大量の新漢語の造出によって、日本語の語彙体系は大きく変わり、和語より漢語のほうが多くなった。
[鈴木英夫]
『加茂正一著『新語の考察』(1944・三省堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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