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黄は黄帝,老は老子を意味し,黄帝と老子を始祖とする道家系の思想。《漢書》芸文志には黄帝の名を冠した書物が多く著録され,1973年,馬王堆漢墓から《老子》とともに出土した帛書(はくしよ)のなかにも黄帝書と思われるものがある。《史記》には,戦国の申不害の学問は〈黄老に本づく〉とか,慎到,田駢(でんべん),接子,環淵たちは〈黄老道徳の術〉を学んだとかいい,また河上丈人から曹参(そうさん)まで7代にわたる黄老学の伝承の系譜を記録している。しかし〈黄老〉と熟した用例は《史記》以前の文献にはなく,その史実性は疑わしい。要するに,黄老思想の成立は早くとも戦国末のことであったと考えられる。漢初には,〈黄老の術〉を治道のかなめに用いた曹参や,〈黄帝老子の術〉を愛した陳平など,秦の法術主義の反動として,〈清浄無為〉の政術を標榜する思想が有力なものとして存在した。このような黄老思想は,漢の武帝による儒教一尊体制の確立とともにすがたをけすが,その後〈黄老〉はひろく道家的哲理をさすことばとして用いられたほか,黄帝書は医学のなかに継承され,また後漢代には〈黄老君〉と呼ばれる神仙的な神格が生まれた。陳王劉寵(りゆうちよう)は〈黄老君を祭って長生の福を求め〉,また桓帝は宮中に〈黄老・浮屠(ふと)の祠を立てた〉という。浮屠とは仏のことであって,このように〈黄老君〉は仏教信仰とも習合した神格であった。
執筆者:吉川 忠夫
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