方法叙説(読み)ほうほうじょせつ(その他表記)Discours de la méthode

改訂新版 世界大百科事典 「方法叙説」の意味・わかりやすい解説

方法叙説 (ほうほうじょせつ)
Discours de la méthode

41歳のデカルトが初めて世に問うた作品で,その代表作の一つ。《方法序説》との訳語もある。《屈折光学》《気象学》《幾何学》の三つの〈試論〉とともに,その序文として1637年に刊行された。全体は6部からなり,デカルトの精神的自叙伝とその思想概略を内容とする。すなわち第1部は良識理性)が万人に共通であるという宣言始まり,彼が学校の学問に失望した理由を語りながら既成の学問を批判する。第2部では1619年にドイツの〈炉部屋〉で発見した方法の規則が,第3部では同時期に体得した道徳の格率が述べられる。第4部では28年ころにはじまるオランダ時代の思索の成果すなわち懐疑,〈コギト〉の発見,神の存在証明にいたる形而上学がはじめて示され,第5部ではその形而上学に基礎をおく自然学の概略が述べられ,中でも心臓の働きや動物機械論に重点が置かれている。最後に第6部ではこの作品と三つの〈試論〉を出版するにいたった理由および今後の研究の抱負が語られ,そこでは彼の哲学が人間を〈自然の主人で所有者にする〉道であるゆえんが示される。近代の思想そのものを切り開いた哲学者の思想とその形成過程がいきいきと描かれた記念碑的な作品といえよう。
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百科事典マイペディア 「方法叙説」の意味・わかりやすい解説

方法叙説【ほうほうじょせつ】

デカルトの代表的著作。《方法序説》とも。1637年刊。デカルトが自らの哲学体系を示すために,《屈折光学》《気象学》《幾何学》の3試論の総序として書いたもの。6部からなる学問的自伝の形をとっており,独立して広く読まれるようになった。理性が万人に共通であることの宣言に始まり,〈コギト〉の発見(我思う,故に我あり)を経て,自然支配の具としての自らの哲学の抱負に至る。

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旺文社世界史事典 三訂版 「方法叙説」の解説

方法叙説
ほうほうじょせつ
Discours de la méthode

フランスの哲学者デカルトの著書
1637年刊。副題の「理性を正しく導き,学問において真理を探究せんがための方法」という言葉が示しているように,彼の方法的懐疑とその結果が述べられており,近代思想の珠玉の小編。

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世界大百科事典(旧版)内の方法叙説の言及

【コギト】より

…コギトはもともと〈考える〉とか〈意識する〉という意味のラテン語cogitareの一人称単数形にすぎないが,今日ではむしろ〈自己意識〉を含意し,精神や自我の本質を自己意識に見ようとする立場と結びつけて語られる。かつてデカルトが《方法叙説》(1637)の中で,絶対不可疑の真理を発見すべく,まずあらゆるものを疑ってみるという〈方法的懐疑〉から出発し,その結果〈そう考えている私は何ものかでなければならぬ〉として〈われ思う,ゆえにわれ在りJe pense,donc je suis〉の命題に到達し,これを〈哲学の第一原理〉と呼んだことに由来する(コギト・エルゴ・スムcogito,ergo sumはその命題のラテン語訳)。以来,精神や自我とコギトとのかかわりをめぐってさまざまな論議が戦わされて今日に至っている。…

【数学】より

…今日の先進文化圏の日常生活は本質的に科学技術に依存している。それをさほど目だたぬところで背後から支えているのが数学である。例えば都市生活の基盤となっている電気,ガス,水道,道路,あるいは鉄道,自動車,航空機などの交通機関,電話,テレビなどの通信機関,人工衛星やコンピューターなど,いずれも数学を用いずに設計製作することはできない。数学はこのように文化生活の基礎をなすものであるが,それ自身高度な学問として研究され,世界の数学者の協力により絶えず進歩を続けている。…

【生命】より

…かれこそ生命現象の因果的理解の観念を科学の中に据え,近代生命科学を出発点につかせた学者であった。デカルトの生命機械論は《方法叙説》や《人間論》に述べられている。かれは動物を〈ゼンマイをまいた自動機械〉であるとし,つまり中世末期以来発達してきたゼンマイ時計と比較している。…

【デカルト】より

…オランダでの〈最初の9ヵ月〉は形而上学的思索に専念したが,ローマで観察された幻日現象の報告をきっかけに自然学の研究に移り,33年には《光論》と《人間論》とから成る《宇宙論》を完成した。しかし同年のガリレイ断罪を知ってその発表を断念し,代りに《屈折光学》《気象学》《幾何学》の三つの〈試論〉に,序文として《方法叙説》を付けて37年に刊行した。このうち《幾何学》は幾何学と代数学を結合して解析幾何学を(フェルマーとともに)創始した業績として知られている。…

※「方法叙説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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