光学活性物質の旋光度は,測定する光線の波長によって変化する。この現象を旋光分散(ORDと略称)または回転分散rotatory dispersion(RDと略称)といい,縦軸に比旋光度[α]または分子旋光度[M]を波長に対してプロットした曲線として表すことができる。比旋光度と入射光の波長λの関係は,光の吸収が無視できる領域では,多くの場合ドルーデの単項式[α]=A/(λ2-λ02),あるいはこのような曲線の重ね合せであるドルーデの多項式で近似される。これらの式で,AやAi,λ0やλiは,旋光性物質に固有な値であり,λ0やλiは吸収極大を示す波長である。図の破線(3)はドルーデの単項式による計算値で,λ0=500nmで不連続となる。ところが実測の旋光分散曲線は,実線(2)のようにλ0のまわりで有限な値をとりながら符号を変化する。このように,比旋光度の値が急激に変化する異常分散の現象をとくにコットン効果Cotton effectと呼ぶ。曲線(2)のようにλ0の長波長側で[α]または[M]の値が負で,短波長側で正となる場合を負のコットン効果と呼び,逆に正から負に変わる場合を正のコットン効果という。曲線(1)に示したのは円偏光二色性(CD)の曲線であるが,クラマース=クローニヒの関係式によって,この曲線から旋光分散曲線(2)が導き出せる。逆に曲線(2)から曲線(1)も導き出せる。ところが,光学活性分子がいくつかの吸収極大を有する場合には,すべての寄与の重ね合せとなり分散曲線は複雑となる。したがって,ふつう旋光分散と円偏光二色性の波長依存曲線を測定して,有機化合物からタンパク質,核酸等の複雑な分子の立体構造の研究を行うことができる。光学活性分子の旋光度や円偏光二色性を計算するための理論は数多く提出されているが,分子が複雑であるために,純粋な量子力学的理論計算によってこれらの量を計算することにはまだ成功していない。
執筆者:正畠 宏祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
略称ORD.光学活性物質の旋光度が波長によってかわる現象.直線偏光または平面偏光は,左右円偏光の合成によって表される.光学活性物質は左円偏光と右円偏光に対する屈折率が異なるため,平面偏光がこの物質を通過すると,両円偏光に位相差を生じて偏光面が回転される(旋光性).また,光学活性物質の吸収が左円偏光と右円偏光に対して異なるときは,両偏光の電気ベクトルの大きさが変化するため,平面偏光がこの物質を通過するとだ円偏光になる(円二色性).旋光分散は,一般にこれら二つの現象が重なって現れる.これは図のような旋光分散曲線によって表示される.縦軸に分子旋光度[φ]をとり,横軸に波長をとる.測定光の波長範囲において,長波長から短波長に向かって,[φ]が単純に増加または減少する場合を単純曲線という,この場合,正の側に増大するものを正とよび,負の側に増大していくものを負という.単純曲線を示す分散を正常分散という.この場合でもさらに短波長領域を測定すれば異常分散が現れる.単純曲線はドルーデの分散式で近似される.
分散曲線が極大,極小をもって複雑に変化するものを異常分散曲線という.1個ずつの極大と極小を有する曲線を単一コットン効果曲線といい,長波長側に極大,短波長側に極小を有するときを正のコットン効果,この逆のときを負のコットン効果を示すという.異常分散曲線に複数のコットン効果が現れる場合を,複合コットン効果曲線という.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
物質の旋光性は用いた光源の波長によって異なるので、波長を変えて比旋光度を測定したスペクトルを旋光分散(ORDともよばれる)という。一般に、ナトリウムのD線(589.3ナノメートル)よりも短波長側の光を用いると比旋光度は大きくなる。また、その物質が入射光を吸収する付近では、比旋光度が急激に増減し、吸収強大の位置では比旋光度がゼロになることが多い。旋光分散の値は、不斉炭素原子を通じて有機化合物の立体配座の研究に用いられる。最近では、円偏光二色性(光学活性の一種)による研究のほうが盛んである。
[下沢 隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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