日本大百科全書(ニッポニカ) 「過剰投資説」の意味・わかりやすい解説
過剰投資説
かじょうとうしせつ
over-investment theory
景気変動、とくに不況がおこるおもな原因を、資本財への過剰投資に求める説。好況が加速されているとき、消費に比べて投資が過度に行われると、資本財生産の不比例的な拡大が、一方ではその過剰を生み出し、他方では消費財生産から生産資源が資本財生産へ吸い上げられる結果、原料価格、賃金の上昇と消費財不足を引き起こし、こうした部門間の不均衡が不況への転化のきっかけになるとするものである。通常、貨幣的過剰投資説と非貨幣的過剰投資説とに分けられるが、後者とされるシュピートホフやカッセルでも、信用や貨幣面の重要性を説いており、前者とされるハイエクでも、景気変動が生産過程の伸縮にほかならないと、実物面を強調することでは後者と同様であり、両者を区別することは困難である。
しかし、1973年の石油ショック後、とくにシュピートホフの所説が見直されつつある。それは次のような見解に基づく。すなわち、世界的にみて、経済資源に限界があり、かつ技術進歩が停滞すると、一定の資源を資本財・消費財両部門に割り当てなくてはならなくなるが、その割当てがうまくいかないと、部門内に不比例が生じ、世界的不況になる、というように彼の所説を理解してみると、石油ショックとそれ以後の世界同時不況はまさにそれではなかったか。また、そうした現象は近代になって何度もおこっており、コンドラチェフの波動の下降期がまさにそれであった、という見解である。かくてコンドラチェフをシュピートホフ流に解釈する方向で、過剰投資説が見直されているのである。
[一杉哲也]