晶出ともいう。通常は液相から固相が単結晶として析出する現象をいうが,広義には,凝集物の析出現象や気相からの固相の析出(逆昇華)も,その機構がほぼ同一視されるためこれに含めることがある。
液相からの晶析には,水からの氷の晶析のような一成分系(融液)からの析出現象と,ショ糖水溶液からのショ糖の晶析のような溶液からの溶質成分の析出現象とがある。このような液相からの晶析現象を温度とともに飽和濃度が大きくなる溶液系を例に説明する。高温において未飽和(飽和濃度より薄い)な濃厚溶液を徐々に冷却すると,その溶液の飽和濃度も低下し,溶液は飽和状態に近づき,さらに冷却を続けると過飽和状態となる。この状態では溶液濃度の飽和濃度に対する比(過飽和度)は1より大きいが,その値が1よりわずかに大きい範囲では,過飽和溶液中ではなんの変化も観察されない。しかし,そのなかに結晶を添加すると,その結晶は成長する。このように添加された結晶が成長する範囲は準安定域といわれ,この状態を利用すると,粗大結晶が容易に得られる。過飽和度がさらに大きくなるように冷却すると,過飽和溶液内に微小結晶が発生するようになる。この現象は核化現象といわれる。この核化現象は,過飽和度と関連した溶液の冷却速度,かくはんなどの機械的エネルギー,溶液中に存在する不純物,析出する結晶と同種の結晶が存在するか否か等の影響を受ける。このような結晶が存在しないときに起こる核発生は一次核化,存在するときの現象は二次核化といわれる。二次核化は一次核化が認められるより小さな過飽和度で起こり,通常の工業装置内では,二次核化現象が支配的に起こる。発生した核や添加結晶が過飽和溶液内に存在すると結晶は成長する。このとき,溶液本体内の溶質は結晶表面に拡散し,そこで結晶格子を形成するように配列する。また結晶表面に接している溶液中の非析出成分は溶液本体内に逆拡散し,結晶中へ包含されることは少ない。したがって得られる結晶は純度が高く,不純物を含む液相より良質の固体製品を容易に分離することができる。得られる結晶の組成は,液組成や操作温度により決定される。また,過飽和状態は,冷却法のほかに溶媒の蒸発や第三物質の添加,反応物の生成によっても得られる。
晶析操作は,食品,肥料,非鉄金属材料,無機薬品,有機薬品,その他の化学工業プロセスで広く用いられている。ここで固液の分離の容易な所望粒径の結晶を得るためには,
(結晶の生産速度)=(種晶数速度)×{(形状係数)×(結晶密度)×(所望粒径)3}
を満足するような種晶数速度を装置内核発生速度の制御から得ること。また
(所望粒径)=(結晶粒径の成長速度)×(結晶の装置内滞留時間)
の関係があるので,工業操作で可能と考えられる成長速度に対して決定される滞留時間の間,結晶を装置内に滞留させ,成長させなければならない。したがって,晶析装置に対しては,系の特性として決定される核化速度・成長速度と操作の目的に合致するような結晶数と滞留時間を満足するような形式,大きさが要求される。とくに連続式で均一粒径の製品を得る装置は成長型晶析装置といわれ,その基本装置としては,図に示すような分級脚付混合型(装置内の状態をほぼ均一に保って結晶を成長させ,所望粒径に成長した結晶のみ取り出す)や分級層型(装置内で結晶を分級しつつ成長させ,所望粒径になったもののみ取り出す)があり,それらおよびその改良型が広く実用されている。また精製分離のみに着目して晶析操作を考えると,製品を固相として取り出す必要がなく,装置内で固化した結晶を再融解して液相として取り出す装置も,分別晶析装置として最近では石油化学製品の分離その他で広く実用されるようになっている。また晶析操作は海水を冷凍し,低エネルギーコストで淡水を得る操作法や,アルミニウムイオンを含む廃液中から水酸化アルミニウムを結晶として取り出すことにより,高度な工業製品の原料として回収するプロセス等,新しい公害処理法や新しい素材原料の生産技術の開発に利用されている。
執筆者:豊倉 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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