杉浦乗意(読み)スギウラジョウイ

デジタル大辞泉 「杉浦乗意」の意味・読み・例文・類語

すぎうら‐じょうい【杉浦乗意】

[1701~1761]江戸中期の装剣金工家。信濃の人。通称、仙右衛門。江戸に出て奈良派の門に入る。肉合ししあい彫り創始し、主に小柄こづかを制作した。奈良三作一人

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改訂新版 世界大百科事典 「杉浦乗意」の意味・わかりやすい解説

杉浦乗意 (すぎうらじょうい)
生没年:1701-61(元禄14-宝暦11)

江戸中期の装剣金工家。信州松本に生まれ,江戸に出て奈良寿永に学んだ。通称を奈良太七,のちに杉浦仙右衛門といい,寿永の推挙により奈良本家の4代利永から永の字を許されて一蚕堂永春と称し,剃髪して乗意と号した。作品の特徴は彼が創始した肉合彫(ししあいぼり)による文様の表現にあるが,これは下地に文様とする部分の輪郭を一段彫り下げ,文様自体を薄肉彫にしたもので,文様が下地より高くならないという技法である。この技によって当時一世を風靡(ふうび)し,土屋安親(つちややすちか),奈良利寿(ならとしなが)とともに奈良三作と称され,高く評価された。作品は小柄(こづか)がほとんどで,鐔(つば)は2点にすぎない。
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朝日日本歴史人物事典 「杉浦乗意」の解説

杉浦乗意

没年:宝暦11.7.24(1761.8.24)
生年元禄14(1701)
江戸中期の装剣金工家。戸田松平家の家臣の子として,美濃国加納(岐阜市)で生まれた(一説にのち移封された信濃国松本ともいう)。幼名は太七,のちに仙右衛門と改名。江戸に出て奈良派3代利治一門の寿永に師事し,戸田松平家の抱え工となって,同藩の御蔵屋敷である江戸深川の小名木川岸に住した。土屋安親,奈良利寿と共に奈良三作のひとりに数えられる名工。肉合彫りの創始者としても知られる。これは平らな下地の文様の周囲を一段低く彫り下げ,文様の部分を薄肉彫りで表して下地より高くしない特殊な技法で,この従来になかった彫法で世評を博した。現存する作品は,小柄が多く,鐔は稀である。代表作に「鉄拐仙人図小柄」「児落獅子図小柄」(いずれも個人蔵)がある。奈良の苗字を許され,稀に「南良」と刻むこともある。師の寿永に永の字を許可されてからは一蚕堂永春と称し,のちに剃髪して乗意と号した。麻布今井町の日蓮宗妙像寺(東京都港区)に葬られた。

(加島勝)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杉浦乗意」の意味・わかりやすい解説

杉浦乗意
すぎうらじょうい
(1701―1761)

江戸中期の装剣金工家。信州(長野県)松本に生まれる。江戸に出て奈良派の寿永(としなが)に学んだ。通称は初め奈良太七、のち杉浦仙右衛門と改めた。号は永春、剃髪(ていはつ)してのち乗意。作品の特徴は、彼の創意になる肉合(ししあい)彫りによる文様の表現にある。すなわち、文様の輪郭を一段彫り下げ、文様自体を薄肉彫りとしたもので、文様が地より高くならないという技法である。これは当時一世を風靡(ふうび)し、土屋安親(やすちか)、奈良利寿(としなが)とともに「奈良三作」の一人として高く評価された。四分一(しぶいち)(銅合金の一種)地に中国人物図、獅子(しし)を緻密(ちみつ)に肉合彫りとした小柄(こづか)の作がほとんどで、鐔(つば)は少なく2枚を数えるにすぎず、ほかに目貫(めぬき)、縁頭(ふちがしら)などを制作している。

[原田一敏]

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百科事典マイペディア 「杉浦乗意」の意味・わかりやすい解説

杉浦乗意【すぎうらじょうい】

江戸中期の金工。通称仙右衛門。奈良乗意,奈良太七,一蚕堂永春とも。信濃(しなの)国松本に生まれ,江戸に出て奈良寿永に学ぶ。奈良利寿(としなが),土屋安親(やすちか)とともに奈良派三作の一人として名高い。作品は小柄(こづか)が多く,装飾には唐画風の題材を用いている。朧銀(ろうぎん)地に肉合(ししあい)彫という精密な彫法を創始し,後の水戸・浜野・大森・京都金工に影響を及ぼした。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「杉浦乗意」の解説

杉浦乗意 すぎうら-じょうい

1701-1761 江戸時代中期の装剣金工。
元禄(げんろく)14年生まれ。江戸の奈良寿永(としなが)にまなび,信濃(しなの)(長野県)松本藩主松平(戸田)家の抱え工となり江戸深川の蔵屋敷にすんだ。肉合(ししあい)彫を創始。作品は小柄(こづか)がおおく,図柄は中国人物,獅子図など。銘は「南良」とも。初代土屋安親(やすちか),奈良利寿(としなが)とともに奈良三作と称される。宝暦11年7月24日死去。61歳。通称は奈良太七,仙右衛門。号ははじめ一蚕堂永春。作品に「鉄拐仙人図小柄」など。

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世界大百科事典(旧版)内の杉浦乗意の言及

【彫金】より

…浮彫に似た効果があるが,文様が地より高くならない特徴がある。杉浦乗意の創始といわれる。 〈象嵌〉は,金属表面を刻み,他の金属を嵌め込んで文様や銘を表現する技法。…

【鐔∥鍔】より

…横谷宗珉は後藤家流の技法を汲む家に生まれながらその作風にあきたらず,構図に新生面を築いたほか,片切彫を創始し,以後の工人に大きな影響を与えた。また奈良三作の土屋安親,奈良利寿(としなが),杉浦乗意も斬新な意匠と独自の彫技をみせている。安親は鐔の形,意匠に,利寿は雄渾な高肉象嵌・色絵に,また鐔の作は少ないものの乗意は肉合彫の創始者として名工の名をほしいままにした。…

【奈良利寿】より

…通称を太兵衛といい,奈良利治の門人とも奈良利永の門人とも伝える。土屋安親杉浦乗意とならんで,奈良三作の一人に数えられる名工。刀装具の中でも縁頭(ふちがしら)の製作に長じ,鐔(つば)は比較的少ない。…

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