長唄三味線方の姓。現在では唄方でこの姓を名のる者もいる。稀音家,杵家とも書かれる。〈杵屋〉が最も古く,《杵屋系譜》によると始祖は初世杵屋勘五郎,元和年間(1615-24)に兄とされる猿若勘三郎(中村勘三郎。中村座の祖)とともに京都から江戸に下った。3代目の2世杵屋勘五郎(杵屋の3代目,勘五郎の2世)は長唄三味線の始祖といわれ,それ以後,杵屋を名のる長唄三味線方は多くの支流を生み,明和期(1764-72)以後,長唄界では圧倒的な勢力をもつに至った。現在,宗家の杵屋六左衛門をはじめ,栄蔵(杵栄派),勝三郎(杵勝派,勝派),喜三郎,佐吉(杵佐派,佐門),正次郎,弥三郎,六三郎(池之端派)など,それぞれ家元として一門を擁している。〈稀音家〉は11代杵屋六左衛門の別号の稀音家照海にはじまる。その名前養子6世杵屋三郎助(一時,勘五郎を名のる)が1908年に稀音家浄観と改め,その子3世杵屋六四郎が1902年4世吉住小三郎と研精会を結成し,26年に姓を稀音家と改めた。現在,その子4世稀音家六四郎の一門はすべて稀音家を名のっている。〈杵家〉は三味線文化譜の考案者である4世杵屋弥七が,27年に杵家と改め,さらに30年以後,〈杵家〉を〈きねいえ〉と呼ぶようになった。
執筆者:植田 隆之助
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