地方公共団体(都道府県,市町村,財産区,地方公共団体の組合)が所有する森林・原野をいう。なお公有林の呼称は1951年に森林法上から消え,国有林以外をすべてまとめて民有林と呼ぶことになった。公有林の合計面積は300万ha弱で,民有林面積の約17%を占める。このうち都道府県有林・市町村有林がそれぞれ約4割を占め,都道府県有林の7割近くが北海道,2割が山梨県にあり,三重県,和歌山県にはない。
市町村有林の多くは,近世村持入会地から生まれた。公有林という用語がはじめて使われた1897年制定の森林法では,公有林の範囲を〈町村及大字ノ共有林等〉とした。大字所有の森林の帰属が問題であったが,その後,旧来から入会慣行のあった住民利用の山林をも含むこととされた。1910年から始まった公有林野整理開発事業は,これらの森林を行政の対象に組み入れていった。公有林野政策は,明治から昭和の初期にかけての重要な林政の一つで,従来の草や薪の採取地を杉やヒノキの用材林に替えて市町村の基本財産をつくること,および荒廃山地を修復して治山治水上の森林の役割を十分に果たさせること,などをおもな目的として進められた。第1期森林治水事業(1871-1935),第2期森林治水事業(1937-47)をはじめ,公有林野官行造林事業などが,市町村有林の整備のために行われた。
都道府県有林は1900年代に入ってまもなく各地に成立し,多くは模範林造成を目的とした。たとえば北海道有林は,06年〈林業経営の模範を示し,地方産業の奨励に資するとともに地方費財源として使用収益をはかる〉目的で,約19万haの国有林が譲与された模範林であった。11年以降〈収益を市町村の教育,産業奨励,土木,衛生などの財源にあてる〉ことを目的に譲与された国有林などを加えて,現在に至っている。山梨県有林は11年,県内所在の入会御料地(皇室所有地)の下賜によって成立した。大水害を機に行われ,県と地元の入会団体との間で従来の慣行にもとづく管理経営が行われている。北海道,山梨県以外では,模範林事業によるもの,分収林業によるもの,各種の記念造林によるものなどが多い。
財産区有林は,53年以降市町村合併が強力に推進されたが(町村合併促進法-1953制定,新市町村合併促進法-1956制定),このようにして新たに市町村が生まれた際,合併前の旧市町村が所有していた所有林を新市町村に提供せず,旧市町村の範囲内だけでの所有にしたものである。財産区(市町村および特別区の一部で財産をもつか〈公の施設〉を設けているもの)の意思決定は,財産区の議会または総会あるいは財産区管理会で行われる。財産区有林と名称は変わっても旧市町村有林だったときと内容はほとんど同じで,直営林,県行造林,官行造林,貸付林など,旧市町村の行っていた管理・経営方針を継承しているものが多い。
公有林は基本財産としての役割をもち,人工林を造成し,経営内容を充実させることに力が注がれてきた。しかし,地方自治体の財政規模が拡大するにつれ,公有林収入の割合は著しく低くなり,基本財産としての機能は低下した。かえって管理・経営費用が財政上の負担になっているものもある。しかし,公有林は一般に水源地帯や奥地にあり,水をたくわえ,緑を維持するうえでの役割が大きく,このような環境保全上の機能が近年着目されはじめ,〈県民の森〉が設置されたりしている。なお公有林は,第2次大戦後の中学校,高等学校の建設などの諸公共施設の資金源となり,また地元のさまざまな産業資材の供給源となった。
→国有林 →民有林
執筆者:筒井 迪夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地方公共団体が所有する林野をいう。国有林、私有林とともに林野所有の基本形態をなしている。日本の公有林野面積は283万ヘクタール(2007)で、林野総面積の11%を占めている。公有林は都道府県有林および市町村有林、財産区有林からなり、前者が119万ヘクタール、後二者で164万ヘクタールである。このうち都道府県有林は他と沿革を異にし、下賜、買収、地上権設定などによって比較的新しく成立したもので、その7割近くを北海道有林と山梨県有林が占めている。市町村有林および財産区有林はほとんどが村持山(むらもちやま)を源基形態としている。明治以降、土地官民有区分、市町村制の施行、公有林野整理統一事業などを通じて、市町村財政の確立、造林推進の名目で入会林野の解体と市町村所有への再編が一貫して追求されてきた。従来から入会権公権論と私権論との対立があり、入会林野近代化=解体政策は前者にたつものであった。このような対立と妥協の産物が市町村有林および市町村の一部が所有する形の財産区有林である。所有名義は公共団体になってはいるが、入会慣行を残すものも多く、その利用形態としては直営林、分収林、貸付け、旧慣使用(旧来からの慣行に従って権利者が共同して利用するもの)など多岐にわたっている。しかし近年、直営林においても自治体財政へ寄与するどころか、逆に保育資金の調達や借入金の償還が大きな問題となっているところが多い。いかにして公有林を地域資源の核として、その公共的役割を発揮させるかが重要な課題となっている。
[野口俊邦]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…日本の森林面積約2500万haのうち約1730万haを占めている。このうち私有林が1460万ha,残りが公有林である(1995年3月末現在)。民有林の呼称は1951年の森林法によって生まれたもので,政策上の用語である。…
※「公有林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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