原子炉の使用済燃料の中から核燃料物質を回収することをいい,あるいは使用済燃料再処理,または単に燃料再処理ということもある。核燃料が原子炉で使用されると,(1)核分裂生成物がしだいに蓄積してきてこれによる中性子吸収が増加し炉の運転が難しくなる,(2)核分裂生成物の蓄積や放射線損傷により核燃料の機械的性質などが変化し燃料体が損傷するおそれがある--ために,ある期間使用したあとはこれを取り出し新しい核燃料と交換する。このようにして原子炉から取り出された核燃料を使用済燃料と呼ぶ。使用済燃料の中にはウランやプルトニウムなどの核燃料物質が含まれるので,経済的な理由だけでなく資源の有効利用の面からこれを回収し再使用することが望ましく,このために核燃料再処理が行われる。
使用済燃料の中には,(1)ウランなどの未反応の核燃料物質,(2)プルトニウムのような新しく生成した核分裂性物質,(3)ネプツニウムやアメリシウムなどの超ウラン元素,(4)核分裂により生じた核分裂生成物が含まれている。この使用済燃料の発生量は,炉型や燃焼度によって異なり,軽水炉の場合は100万kW当り約30t/年である。一般の化学物質の処理系と異なり,使用済燃料を処理する場合は次のような制約を受ける。(1)使用済燃料は核分裂性物質を含むために,使用済燃料はもちろんこれから回収されたウランやプルトニウムを取り扱う場合,核分裂の連鎖反応が起こらないような考慮が必要である。このため,臨界に達しないような水準にその濃度や寸法などをおさえなければならない。(2)核分裂生成物の多くは放射性崩壊により放射線を放出する。放射性物質の放出する放射線の量が当初の半分になるまでの期間を半減期と呼ぶが,半減期は物質によって異なる。特に超ウラン元素は半減期が非常に長いので,これらを含む廃棄物は長期間にわたって人間社会から隔離しなければならない。(3)また放射性崩壊に伴って放射能とともに多量の熱を発生する。なお,原子炉から取り出された使用済燃料には半減期の短い放射性物質が多く含まれているため,放射能と熱は時間とともに急激に減少する。
再処理の方法は,処理形態から湿式法と乾式法に大別される。湿式法は,使用済燃料を硝酸やその他の酸で溶解して水溶液の状態とし,その溶液化学的な性質の差を利用して核燃料物質を回収する方法である。最初は,沈殿法やイオン交換法が用いられたが,溶媒抽出法が処理能力や回収率および除染係数(原料と製品の中に含まれる不純物量の比)などの点から最も優れていることが認められ,現在ではピュレックスpurex法と呼ばれるリン酸トリブチルtributyl phosphate(TBP)を溶媒に用いた方法が軽水炉燃料の再処理に実用化されている。一方,乾式法は使用済燃料をハロゲン化物,溶融塩あるいは酸化物粉末など水溶液以外の形態に変えて処理する方法で,湿式法と比べて潜在的利点があるが,回収率や除染係数などの点で未解決な点が多く,実用化の見とおしは得られていない。
ピュレックス法による軽水炉燃料の再処理工程を説明する。
(1)受入れ・貯蔵 原子炉サイトで冷却された使用済燃料は,輸送容器に入れて再処理工場へ運ばれてくる。燃料は,工場内の水プールまたはセル(遮蔽用のコンクリートで囲われた部屋)の中で容器から取り出し,ふたたび水プール内に貯蔵し,放射能と熱が減少するのを待つ。
(2)前処理 一般に延べ1年以上冷却されると,使用済燃料は1体ずつ貯蔵プールから機械処理用セル内へ移され,剪断機で約5cmの長さに細断される。細断片は溶解槽(加熱用のスチームジャケットを備えたステンレス鋼製の容器)へ入れられ,硝酸を加えて沸騰させる。燃料酸化物は硝酸と反応して硝酸溶液となり,一方,燃料を被覆しているジルカロイ(ジルコニウム合金)は硝酸と反応しないために不溶性残渣(ハルと呼ばれる)となって溶解槽の中に残るので,この槽から取り出され高レベル固体廃棄物として処理される。溶解に伴って発生したガス(溶解オフガス)はヨウ素,クリプトンなどの揮発性の核分裂生成物や窒素酸化物などを含むので,廃気処理工程で処理したのち工場の排気筒から大気中へ放出される。溶解液は,清澄器でこの中に含まれるジルカロイ微粉や未溶解の核分裂生成物などが除かれ,次いで硝酸を加えてあとの工程に適したウランおよび硝酸濃度に調整される。
(3)主分離・精製 調整後の液(フィード)は主分離工程へ送られて,ここで核分裂生成物,プルトニウムおよびウランが順次相互に分離される。すなわち,これらの硝酸溶液(水相)と30容積%TBP-ドデカン混合液(溶媒相)の系において,(a)ウランの分配係数(溶媒相と水相との間の平衡状態にある溶質濃度の比。抽出されやすさの目安)は硝酸濃度が高いと大きいが硝酸濃度が低くなると小さくなる,(b)プルトニウムの場合は原子価が4価のときは分配係数は大きいが3価になると著しく小さくなる,(c)核分裂生成物の場合は分配係数は小さい,という性質がある。そこで,まずフィードを第1の抽出器へ送り,ここで30%TBP-ドデカン溶媒と向流接触させてウランとプルトニウムを溶媒相中へ移し,次にこの溶媒を硝酸と向流接触させて同伴する核分裂生成物を水相中に追い出す(共除染という)。溶媒は第2の抽出器に送り,プルトニウムの還元剤(通常ウラナス(4価のウラン)硝酸溶液が使用される)と向流接触させて溶媒中のプルトニウムを3価に還元させることによってプルトニウムだけを水相へ追い出す。ウランを含む溶媒は第3の抽出器に送り,希硝酸と向流接触させてウランを水相中へ移す。ウラン溶液は蒸発濃縮してウラン濃度を高めたあと次のウラン精製工程へ送られる。
このウランおよびプルトニウム溶液中にはまだかなりの量の核分裂生成物が残留するので,精製工程でさらに処理する。蒸発濃縮後のウランは,ウランおよび硝酸濃度が適当な条件に調整されたあと抽出器へ送られ,ここで30%TBP-ドデカン溶媒で抽出および硝酸による洗浄をへて,次の抽出器に入り希硝酸でふたたび逆抽出される。核分裂生成物の除去の程度に応じて,この操作をさらに1サイクル繰り返し約450g/lの精製済みの硝酸ウラニル溶液を得る。一方,プルトニウムは4価に酸化して硝酸濃度を調整したあと,抽出器へ送って30%TBP-ドデカン溶媒で抽出,硝酸で洗浄し,次の抽出器で還元剤と向流接触させてプルトニウムを水相中に逆抽出する。さらに,同様の操作を1サイクル繰り返し,蒸発濃縮することによって約250g/lの精製硝酸プルトニウム溶液を得る。
こうして得られたウランは,回収率が99%以上で,その純度はウラン中のプルトニウム10ppb以下,ウラン中の核分裂生成物の放射能は天然ウランの値の2倍以下である。プルトニウムについては,回収率が98%以上で,プルトニウム中の核分裂生成物による放射能は50μCi/g以下である。
使用済みの溶媒は,アルカリ洗浄をしたのち抽出工程で再使用される。核分裂生成物を含む硝酸廃液は,蒸発濃縮と蒸留操作をへて硝酸の大部分が回収・再使用され,蒸発缶濃縮液は高レベル廃液(核分裂生成物の99%以上が含まれる)として処理される。
(4)転換 硝酸ウラニルおよび硝酸プルトニウムは,再使用のために他の化合物に転換される。硝酸ウラニルは,一般に熱分解によって三酸化ウランに変えられて一時貯蔵されたのち,用途に応じて六フッ化ウランまたは二酸化ウラン粉末とされる。熱分解のかわりにアンモニア沈殿処理を行っている工場もある。硝酸プルトニウムは,熱分解またはシュウ酸沈殿法により二酸化プルトニウム粉末とされ,燃料加工工場へ送られる。
高速炉の使用済燃料は,軽水炉の場合と比較して,(1)燃料体の構造,形状,寸法が異なる(燃料棒はピン状で被覆管はステンレス鋼,燃料棒束は肉厚のステンレス鋼で囲われている),(2)燃料成分は混合酸化物でプルトニウムの含有量が高い,(3)冷却機のナトリウムが同伴する,(4)燃焼度が高く核分裂収率も大きいので核分裂生成物の生成量が多い,(5)使用済燃料の残存価値が高いのでなるべく短い冷却時間で再処理することが望ましい,などの特徴がある。現在のところ,ピュレックス法による軽水炉燃料再処理技術をベースに,燃料の剪断,溶解,清澄化,ウラン-プルトニウム分離などの工程に改良を加えれば,このような燃料の再処理は可能と考えられている。
再処理工場は,原料である使用済燃料に種々の化学的操作を加えてウラン,プルトニウムを回収するので一種の化学工場とみなすことができるが,取り扱う対象が高放射性でかつ核分裂性の物質であるために,その設計,建設および運転にあたっては種々の安全上からの配慮が必要である。放射線による被曝を防止するために,機器は厚いコンクリート遮蔽壁(セル)の中に設置される。放射性物質による空気の汚染を防ぐために,機器およびセルの内部は負圧に保たれ,排気は高性能フィルターなどで処理されたのち大気中へ放出される。セルの床面は,機器からの液漏洩に備えてステンレス鋼板でライニングされ,つねに液漏洩の有無が監視される。セル内の機器は,放射能のために人が近づけず,したがってその保守が簡単には行えないので,故障が少なく信頼性の高いものが使用される。万が一故障の場合は,セルの外から遠隔的に,または除染により,人が直接セル内に立ち入って修理ができるような考慮が必要である。核物質による核分裂の連鎖反応の発生(臨界事故)は,機器の形状と寸法およびその配置,濃度,質量などを制限することによって防止する。再処理工場ではプルトニウムが回収されるため,これが核兵器に転用される潜在的危険性が大きいので,この転用防止の対策すなわち保障措置が他の核燃料サイクル施設と比べてより重要である。
執筆者:八木 英二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一方,再利用する場合は循環型(リサイクル型)とよばれ,そのためには使用済燃料から有用なU,Puを回収すると同時に,不要な核分裂生成物を除去する必要がある。このことは,原子炉で用いる前に種々手を加えて処理した核燃料をふたたび処理し直すことを意味するので,使用済燃料再処理(核燃料再処理)とよばれる。 再処理によってU,Puの再利用が可能になれば,Uの利用率が向上する。…
※「核燃料再処理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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