日本大百科全書(ニッポニカ) 「桂枝湯」の意味・わかりやすい解説
桂枝湯
けいしとう
代表的な漢方処方の一つ。中国の後漢(ごかん)のころ(2世紀後半)張仲景によってまとめられたとされる『傷寒論(しょうかんろん)』に収載され、他の多くの漢方処方の基本となるものである。処方構成は次のとおりである(括弧(かっこ)内は基源となる植物)。桂枝(ニッケイ)・芍薬(しゃくやく)(シャクヤク)・大棗(たいそう)(ナツメ)・生薑(しょうきょう)(ショウガ)各4グラム、甘草(かんぞう)(カンゾウ)2グラムを基本とし、虚弱体質者が感冒にかかったときに用いられることが多い。なんとなく汗ばみ、熱は高くはないが風に当たると寒気がする、頭痛、乾嘔(かんおう)(吐き気)、身体痛があるなどが投薬目標となる。こうした感冒のほか、神経痛、リウマチ、神経衰弱、陰萎(いんい)、寒冷による頭痛や腹痛などにも応用されるが、熱性病で汗が出ない者には不適当である。桂枝湯にはいろいろな加減方があり、次に繁用される処方をあげる。それぞれの処方名に桂枝がつくように、いずれも主薬は桂枝であり、他の薬物を加えることによって気分を快適にし、内にある邪(病毒)を発散させる作用をもつ。
桂枝加葛根湯(かっこんとう)=桂枝湯の投薬目標となる症状のほかに、肩が凝り、首すじがこわばるときに葛根を加える。桂枝加芍薬湯=腹筋がこわばった腹痛には芍薬を増量する。桂枝加竜骨牡蠣湯(りゅうこつぼれいとう)=精神的疲労による陰萎、遺精、神経衰弱、小児の夜尿などには竜骨(古代哺乳(ほにゅう)動物の化石)および牡蠣(かき)(マガキ)を加える。桂枝加黄耆湯(おうぎとう)=盗汗(寝汗)には黄耆(オウギ)を加える。
[難波恒雄・御影雅幸]