機能主義建築(読み)きのうしゅぎけんちく

改訂新版 世界大百科事典 「機能主義建築」の意味・わかりやすい解説

機能主義建築 (きのうしゅぎけんちく)

建築を設計するのに,使用目的をふまえその建築に要求される機能を重視して,あらゆる部分を構成してゆこうとする考え方。用と美と善の間には分かちがたい関係があると知っていたという点で,機能主義建築は古代ギリシアからある。ローマの建築家ウィトルウィウスも,建築を〈耐久性,便利さ,そして美〉の立場から論じている。しかし,産業革命後の近代社会に,工場・倉庫,百貨店・市場,停車場・博覧会場といった新しい種類の建築が現れるにつれ,建築での機能への関心が高まった。オーストリアO.ワーグナーは〈用あるもののみが美しい〉といい,〈必要様式Nutzstil〉を唱え機能の再認識を促した。同じウィーンで活躍したA.ロースは〈装飾は罪悪なり〉と断じ,歴史様式からの決別を促した。他方,アメリカL.H.サリバンは〈形態は機能に従う〉といい,近代資本主義が建築に要求する経済性をとらえ,強い説得力を持って語り継がれた。その後の近代建築家も社会が要求する機能に常に関心を払い,たとえば丹下健三は〈美しきもののみ機能的である〉といい,アメリカのL.I.カーンは〈機能は形態を啓示する〉などさまざまな論の提示がなされている。機能主義は歴史様式に基づく建築から脱却するのに有力な論拠となったが,造形論理としてかならずしも十分でない。このため工学技術の進歩により建築での機能の充足はより容易になっているが,建築造形への影響は決定的ではなかった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「機能主義建築」の意味・わかりやすい解説

機能主義建築
きのうしゅぎけんちく

19世紀後半から自然科学や社会科学の諸分野で有力になった機能主義は、とりわけ近代建築や近代デザインの形成・発展期に指導理念として作用してきた。ここでは19世紀アメリカの彫刻家グリーノーHoratio Greenough(1805―52)の述べた「形態は機能に従う」というモットーが出発点に置かれる。すなわち、用途に徹し、機能的に無駄のないデザインを最良のものとし、単なる造形的遊戯はいっさい排していこうとする考え方である。

 20世紀に入って、工業力の充実と合理的思考の発達を背景にこの方向はいっそう強化され、1920年代、30年代の近代建築運動において支配的となった。ル・コルビュジエは機械美に範例を求めながら、数学的な精密さや物理的な節約を基本に置き、それら諸因子によって構成される原理的な表現に入り、建築における機能主義を新しい方法論として浮かび上がらせた。

 ミース・ファン・デル・ローエは、合理的な側面をより一段と推進させた建築家である。グロピウスによるドイツバウハウスが目ざしたところも、終局的には新しい工業時代にふさわしい美学であり、これが機能主義と深くかかわった。CIAM(シアム)(近代建築国際会議)が「機能的な都市」を議題に取り上げたのも同じ思潮のうえにたっていた。当初若々しいエネルギーをもったこの思潮もやがて画一化、定型化の兆しがみえ、その限りにおいて路線変更を余儀なくされることとなった。

[高見堅志郎]

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百科事典マイペディア 「機能主義建築」の意味・わかりやすい解説

機能主義建築【きのうしゅぎけんちく】

19世紀末から20世紀初頭にL.H.サリバン,O.ワーグナーによって提唱された近代建築の代表的思潮。サリバンの〈形体は機能に従う〉という言葉からfunctionalismの語が生まれた。構造・材料の力学的合理性と経済性,建物の合目的性,装飾的付属物の排除を特徴とする。近代工業の発達と生活の合理化を反映したもので,第1次大戦前後に隆盛。代表的建築家にグロピウスル・コルビュジエベーレンスら。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「機能主義建築」の意味・わかりやすい解説

機能主義建築
きのうしゅぎけんちく
Functionalistic architecture

「その機能を満足させることを優先しなければならない」とする機能主義に基づいた建築物。近代合理主義の思想は,従前の建築の機能と無関係の装飾や造形に対して,これを激しく排斥した。アメリカの L.サリバンは,20世紀の初めに生物の機能的形態に触発されて「形態は機能に従う」と述べ,機能主義を唱えている。機能主義建築とは一般的に,工場や事務所のように比較的機能のはっきりした建築をいうが,現代においては,あらゆる建築の根底に機能主義思想が多かれ少なかれ流れている。

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世界大百科事典(旧版)内の機能主義建築の言及

【機能主義】より

…同じように〈機能の重視〉を主張しても,その〈機能〉の意味は一義的ではない。やはりこの時代(1890年代以降),建築や工芸の領域でもL.H.サリバンを中心とするシカゴ学派によって機能主義が提唱されたが(機能主義建築),これは〈形態は機能に従う〉というモットーのもとに美的価値と実用的機能との統一を目ざすものであったから,この場合の〈機能〉も心理学や人類学のそれとはかなり異なっている。 このように,たまたま同じ〈機能主義〉を標榜したにしても,それぞれの主張内容にかなりのへだたりがあるのだから,それらの立場をむぞうさに一括するわけにはいかないが,しかしそれぞれの領域の置かれていた特殊な問題状況に応じて現れ方は違っても,そこにはやはり近代の実体論的思考や,その帰結である要素主義的・機械論的な考え方に反対して,あくまで経験に支えられる諸現象とその変化を全体的連関のなかで動的にとらえようとする時代の共通の志向が認められる。…

【構成主義】より

…ロシア国内の生産主義的構成主義は,30年ころその形式主義偏重の傾向を批判され,社会主義リアリズムがそれに取って代わる。一方20年代後半に建設活動が活発となった建築の領域では,ベスニンVesnin3兄弟,ギンズブルグMoisei Ya.Ginzburg(1892‐1946)らの〈現代建築家協会(OSA(オサ))〉(1925結成)が構成主義を名のり,西欧の近代建築運動と歩調をあわせて機能主義建築を主張したが,これも30年代初めには復古的な古典主義に取って代わられた。 1922年ベルリンのロシア美術展において初めて西欧に伝えられた構成主義は,ただちに進歩的な前衛芸術家に受け入れられ,その結果ドイツのモホリ・ナギ,オランダのモンドリアン,ファン・ドゥースブルフ(新造形主義),フランスのル・コルビュジエ,オザンファン(ピュリスム),レジェ(機械主義)らを含める広義の構成主義が成立した。…

※「機能主義建築」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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