古代語の中で、語中語尾に母音が位置する単純語では唯一の例である。これについては諸説あって( 1 )「掻く」の連用形のイ音便、と解する説が有力であるが、音便としては時代的に早すぎ、また、語と語の融合を示す音便のさきがけが名詞の語末であるというのは考えにくい、といった問題がある。ほかに、( 2 )被覆形「カ」に語的独立のための接尾語〔i〕のついた露出形、という説もあるが、なぜ母音融合を起こさなかったのかという疑問が残る。( 3 )ヤ行上二段動詞の連用形、という想定は「カユ」の語が文献上確認できない、( 4 )「」の字音、という説も、稀字に属する「」字が日本語に採り入れられたことになり疑わしい。「」字は、中世以降は「械」に取ってかわられるところから、むしろ「カイ」という語に当てるために形声によって造られた字と考えるべきであろう。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
船の推進具。水をかいて生じる抵抗を利用して船を進める道具としての櫂には、パドルpaddleとオールoarがあり、一般に同音の「かい」でよばれるが、船舶史のほうではパドルを櫂、オールを橈(かい)と区別している。
船の推進具としての櫂の出現はきわめて古く、約5000年前の古代エジプトの絵に明瞭(めいりょう)に描かれている。これは漕(こ)ぎ手が前を向いて漕いでおり、支点のないパドルであるが、この方法は初めて人類が考えた推進法であろう。これに対して、舷側(げんそく)に支点を設け、漕ぎ手が後ろ向きで漕ぐオールは、パドルよりやや遅れて現れた。これは単に力学的に優れているだけでなく、舷側の高い大型船用としては欠かせない推進具であったため、古代ギリシア、ローマから今日に至るまで世界的な規模で人力推進具の主流を占めることになった。
日本の船では約5000年前、縄文時代前期の丸木舟にすでにパドルが使われ、それは弥生(やよい)時代にかけて変わりがない。古代の中国でも同様である。このようにパドルの使用が時代と地域を問わず早くから広まっているのは、古代の幅の狭い丸木舟ではパドルしか使えなかったためである。縄文期の櫂と古代エジプトやギリシアの櫂とが似ているからといって、これを伝播(でんぱ)によるものと速断すべきではないだろう。
他方、日本でのオール使用のもっとも早い確証は、5世紀ごろの宮崎県西都原(さいとばる)古墳出土の船形埴輪(はにわ)である。これには左右の舷上に6個ずつのオール用の支点がある。これはおそらく弥生時代に大陸から大型船の造船技術とともに導入されたものと思われる。というのは、当時、中国では小舟にはパドル、大型船にはオールを使っているためで、これが弥生時代、古墳時代にも直接的な影響を与えたとみられる。また『万葉集』にはカヂとカイが登場するが、前者は「真楫繁貫(まかじしじぬ)き」ともあることから大型船用のオール、後者はパドルと解するのが妥当であろう。平安時代になると、より優れた櫓(ろ)が使われ始め、以来これが日本の推進具の主流となり、橈は伝馬船(てんません)など一部の小舟用となったが、日本海側では近世前期まで大小の船に橈が主用され、櫓の普及は遅れた。なお櫂には、練り櫂といって櫓と似た漕ぎ方をするものもある。
明治時代以後の近代的な軍艦や商船は蒸気機関のプロペラ推進にかわり、それに搭載される端艇(たんてい)のほか、競技用ボートのフォア、エイトなどや公園の貸ボートなどにはすべてヨーロッパ直輸入のオールが使われるようになった。これらは機能的には同じオールであるが、日本古来のものとは無関係である。
[石井謙治]
『石井謙治著『図説和船史話』(1983・至誠堂)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…本来は小さい舟のこと。しかしフェリーボートとかUボートなど,かなり広い意味にも使う。日本語としては西洋型の小舟を意味する。そして公園の貸しボートや競技用のエイト,フォア,スカルなどオールでこぐスポーツないし娯楽用のものを指すことが多い。エイトとフォアはそれぞれ8人と4人が1本ずつオールをこぐが,スカルは1人で両玄2本のオールをこぐ。いずれも超軽量の船体,前後に滑動する座席,張り出したオール受座を使い,飛ぶように水面を滑る高性能を誇る。…
※「櫂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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