翻訳|yawning
あくびは,口を大きく開いて,長く,深い吸息(息を吸い込む動作)とこれに続いて起こるゆっくりとした呼息(息を吐き出す動作)とからなる特有な呼吸動作をさす。通常,あくびの持続時間は5~10秒で,吸息の時期が長い。あくびに伴って全身の伸筋の収縮が同時に起こり,とくに上肢や下肢,軀幹を後方へ伸ばす動作を伴う。新生児では頻繁に起こる。あくびは,ヒトだけでなく種々の動物でもみられ,実験的には脳の特定部位(内包)への電気刺激によって起こすことができる。あくびは,内外環境における多種多様な刺激に対する生物体の応答の一種として,全身的に種々の変化を伴って起こる特有な不随意的呼吸動作ともみられる。成人では次のようないろいろな状況で起こる。眠りにつく前,眠気を感じたとき,睡眠不足のまま目覚めたとき,精神的および身体的に疲労したとき,退屈したとき,空腹時などであり,これらの状況は外環境に対する注意力が減退している点で共通している。同じ環境のもとにあるグループ内の個人個人の間で,あくびの伝染が起こる。また,あくびを起こす刺激が弱い場合に起こる小さなあくびが〈ためいき〉であると考えられている。脳出血,脳腫瘍,脳炎や種々の頭蓋内の病変がある場合にもあくびが起こる。あくびの動作を詳しくみると,次のような種々の変化が全身的に起こっている。胸郭の拡張,横隔膜および喉頭の下降,鼻翼と軟口蓋の上昇,舌の後下方への移動,声帯の外転,口の開大,口蓋帆張筋の収縮,閉眼,流涙,頭部の後方への伸展,上腕の側方への伸展,前腕の上方への伸展,ときに下腿の伸長,四肢の血管の収縮,心拍数増加,心臓への静脈還流の増加,肺胞ガス分圧の大きな変化などである。あくびが起こる原因には,中枢神経系における酸素欠乏,中枢の疲労,機能異常などが推測されてきているが,あくびの原因の生理学的機序,関係する神経回路や生理的意義は今日なお十分にわかっていない。肺で換気不良の肺胞は萎縮する傾向があることから,あくびは深い吸息によって肺胞を拡張し,肺の拡張不全を防ぐ一つの手段となっているとする意見もある。あくびの動作には,上述のように広範な全身的な変化が同時に起こることから,中枢神経系のなかで大脳新皮質,線状体,視床下部,大脳辺縁系,自律中枢などの関与があるものと考えられている。
執筆者:福原 武彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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