泉鏡花の短編小説。1910年(明治43)1月『新小説』に発表。17年(大正6)8月春陽堂刊の『粧蝶集』に収録。鏡花の母は能楽にかかわる家の出であり、『歌行燈』は能の世界に題材をとる円熟期の作。恩地源三郎の養子喜多八は、能楽界の鶴(つる)とうたわれながら、若気の過ちから、同じ流儀の盲人宗山に芸のうえで侮辱を与え自殺に追い込む。宗山の娘お三重は芸者に身を落とし、破門された喜多八は、いまは博多節(はかたぶし)の門付(かどづけ)芸人。源三郎が鼓の名手雪叟(せっそう)と桑名に宿をとった夜、彼らの席によばれたのは偶然にもお三重であった。そこからほど近いうどん屋で酒を飲みながら懺悔(ざんげ)する喜多八。桑名の夜景のなかで宿命の糸がやがて一つに結び合わされる。緊密な構成をもつ傑作。
[笠原伸夫]
『『歌行燈』(岩波文庫・旺文社文庫・新潮文庫)』▽『笠原伸夫著『歌行燈の空間構成』(『近代小説と夢』所収・1978・冬樹社)』
敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。また、苦しまぎれに考え出した手立て。苦肉の謀はかりごと。「苦肉の策を講じる」...