止・停・留(読み)とどまる

精選版 日本国語大辞典 「止・停・留」の意味・読み・例文・類語

とどま・る【止・停・留】

〘自ラ五(四)〙
① ひとところにあって動かなくなる。移動しないで、同一の場所にある。静止している。
万葉(8C後)八・一四五三「高き荒海を 島伝ひ い別れ往かば 留有(とどまれる) 吾れは幣(ぬさ)引き 斎(いは)つつ 君をばやらむ はや帰りませ」
② 動いていたものが静止の状態にはいる。動くのをやめる。たちどまる。
※斯道文庫本願経四分律平安初期点(810頃)「頭面をもちてみ足を礼し、却きて一面に住(ととマリ)つつ」
③ つかえて進まなくなる。とどこおる。渋滞する。よどむ。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)五「法の於に尋思するに暫くも停(トトマル)こと無し」
④ やめになる。中止になる。やむ。
※後拾遺(1086)秋上・三二三・詞書「花山院歌合せさせ給はむとしけるに、とどまり侍りにけれど」
⑤ やどる。とまる。滞在する。逗留する。宿泊する。
書紀(720)仁徳三〇年九月(前田本訓)「則ち其の採(と)れる所の御綱葉を海に投(なけい)れて着岸(トドマリ)たまはず」
源氏(1001‐14頃)夢浮橋「詣でて帰りける道に、宇治の院といふ所にとどまりて侍りけるに」
遺物として残る。この世に生きて残る。また、他のものの去ったあとに残る。
古今(905‐914)仮名序「松の葉の散り失せずして、まさきのかづら永く伝はり、鳥の跡久しくとどまれらば」
⑦ 殺される。獣などが仕止められる。とどめを刺される。
曾我物語(南北朝頃)八「鹿は少しも働かず、二つの矢にてぞとどまりける」
⑧ 最高のものとする。
浄瑠璃・山崎与次兵衛寿の門松(1718)中「人の父としては慈にとどまり、人の子として孝にとどまるといふ」
⑨ それ以上にならなくなる。その範囲を越えなくなる。
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「和漢に名ある稗官者流はひたすら脚色(しくみ)の皮相にとどまるを拙しとして」
※大道無門(1926)〈里見弴隣人「ただの噂話といふ程度では止(トド)まらなかった」
⑩ 現在の地位や職から動かないでいる。
※彼の歩んだ道(1965)〈末川博〉四「原級にとどまった生徒なので」
⑪ 留意する。注意する。心を向ける。それにひきつけられる。
※源氏(1001‐14頃)若紫「なべてならずもてひがみたる事好み給ふ御心なれば、御身ととまらむをやと見奉る」
⑫ (他動詞的に用いて) しようと思ったことをやめる。思いとどまる。
日葡辞書(1603‐04)「ジガイヲ todomaru(トドマル)

とど・める【止・停・留】

〘他マ下一〙 とど・む 〘他マ下二〙
① 行くことができないようにする。その場から去らないようにする。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「波斯匿王と眷属衆との法の席を避し時には仏制止(トトメ)たまひたり」
② 制する。抑止する。さしとめる。おさえる。
※万葉(8C後)一七・四〇〇八「思ふ空 やすくあらねば 歎かくを 等騰米(トドメ)もかねて 見渡せば 卯の花山の ほととぎす ねのみし鳴かゆ」
③ 中止する。やめる。省く。略する。
※枕(10C終)三三「説経の講師は顔よき。講師の顔をつとまもらへたるこそ、その説く事の尊さも覚ゆれ。〈略〉このことはとどむべし」
④ (気持や注意を動かさず)一つのものに集中する。注ぐ。離れないようにする。つく。注意する。
※伊勢物語(10C前)四四「この歌はあるが中におもしろければ、心とどめて読まず腹にあぢはひて」
⑤ その場から移動しないようにさせる。つける。とめる。宿泊させる。滞在させる。
※万葉(8C後)一四・三三四八「夏麻引く海上潟の沖つ州に舟は等杼米(トドメ)むさ夜ふけにけり」
⑥ あとに残す。遺留する。死後に残す。残して置く。残す。
※古今(905‐914)春下・一一四「惜しと思ふ心は糸によられなむ散る花ごとにぬきてとどめむ〈素性〉」
⑦ 滅びないようにする。生きながらえさせる。保持する。
※万葉(8C後)三・四六一「留(とどめ)えぬ命にしあればしきたへの家ゆは出でて雲隠りにき」
※海辺の光景(1959)〈安岡章太郎〉「ほとんど原型をとどめないボロボロの着物を」
⑧ 殺す。とどめを刺す。けりをつける。
※曾我物語(南北朝頃)八「保重が矢一つにてとどめたる鹿を」
⑨ 最高のものと決める。
※雑俳・柳多留‐四九(1810)「我国の大樹は松にとどめたり」
⑩ それ以上に及ぼさないようにする。その範囲から出ないようにする。それだけにする。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉八「実に日本一の不出来(ふでかし)彼一人に止(トド)めたり」
[補注]「とめる」が、事物や現象の進行をそこで終わりにさせることを表わす「瞬間動詞」であるのに対して、「とどめる」は終わりにさせるとともに、その動かない状態を続けさせることを表わす「継続動詞」である。

とど・む【止・停・留】

[1] 〘他マ上二〙 =とどめる(止)
※万葉(8C後)五・八〇四「同輩児(よちこ)らと 手たづさはりて 遊びけむ 時の盛りを 等々尾(トドミ)かね 過しやりつれ」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒とどめる(止)
[補注]((一)について) (1)挙例の「万葉集」に見える「等々尾」や「等騰尾」の「尾」は乙類の文字であるので、上二段活用と考えられる。ただし「尾」の使用は憶良の歌に限られるようなので、憶良が意図的に古形もしくは九州方言を利用している可能性もある。
(2)前項の名詞「とどみ(停)」の万葉例では、「み」が甲類音であるので、そこから四段活用動詞「とどむ」の存在を想定する説もある。

とどまり【止・停・留】

〘名〙 (動詞「とどまる(止)」の連用形の名詞化) とどまること。停止すること。宿泊すること。また、その場所。宿泊所。
※神楽歌(9C後)早歌「〈本〉何れぞも 止々万利(トトマリ) 〈末〉かの崎こえて」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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