デジタル大辞泉 「此の」の意味・読み・例文・類語 こ‐の【×此の/×斯の】 [連体]《代名詞「こ」+格助詞「の」から》1 空間的・心理的に、話し手に近い人や物をさす。「―人が僕の親友のA君です」「―本は誰のですか」2 話し手が当面している事柄や場面をさす。今の。「―話はもう少し考えてみよう」「―調子でいけば」3 (年・月・日などに関する語の上に付いて)㋐あまり遠くない過去を表す。さる。「―十日に長男が生まれた」「―五年で、町内のようすがすっかり変わった」㋑ごく近い未来をさす。きたる。次の。「―日曜に式を挙げることになっている」[類語]これ・それ・あれ・どれ・その・あの・どの・かの 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「此の」の意味・読み・例文・類語 こ‐の【此・斯】 〘 連語 〙 ( 近称の代名詞「こ」に格助詞「の」の付いたもの。近代語では「こ」の単独用法がないので、一語とみて「連体詞」とする )① 話し手が、空間的、心理的に近い事物や人をさし示す。[初出の実例]「許能(コノ)御酒(みき)を 醸(か)みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸みけれかも」(出典:古事記(712)中・歌謡)「道来るひとこの野はぬす人あなりとて、火つけむとす」(出典:伊勢物語(10C前)一二)② ( 上代・中古には、中称・遠称の代名詞が未発達であったために ) 話し手、聞き手からやや遠い事物をさし示す。(イ) 「その」の意。[初出の実例]「女君つくづくと聞きみ給ひて、この渡らんとし給ふ所は、三条にこそありけれ。〈略〉いとほしと思したるけしきにての給へば」(出典:落窪物語(10C後)三)(ロ) 「あの」の意。かの。例の。[初出の実例]「これや是能(こノ)大和にしては我が恋ふる紀路(きぢ)にありといふ名に負ふ背の山」(出典:万葉集(8C後)一・三五)③ 「こ」の指示する対象を略し、または含んで「この人の」「この家の」「ここの」などの意を表わす。[初出の実例]「この、常にゆかしがり給ふ物の音など、さらに聞かせたてまつらざりつるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)④ 時に関係する語を下に続けて、すぐ近い時の、最近の、の意を表わす。(イ) このかた。以来。それから今まで。それ以来今日まで。[初出の実例]「住吉の神をたのみはじめ奉りて、この十八年になり侍りぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)(ロ) 今年の。[初出の実例]「今(コノ)夏五月、熱に因りて、涼を追ふに」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)九)(ハ) 今月の。[初出の実例]「此十五日になん月の都よりかぐやひめのむかへにまうでくなる」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))(ニ) 今日の。[初出の実例]「我が屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけき許能(コノ)夕へかも」(出典:万葉集(8C後)一九・四二九一)(ホ) 今の。[初出の実例]「眺め来て月如何ばかり忍はれんこの世し雲の外になりなば」(出典:山家集(12C後)下)(ヘ) 明日の。[初出の実例]「さて只今にて候ふべきやらん。いやこの暁か明夜かと承り候」(出典:謡曲・盛久(1423頃))⑤ 話し手が話題として取り上げている事物や人をさし示す。(イ) 具体的な物を指示する。[初出の実例]「此(この)三柱の神は、並に独神と成り坐して、身を隠したまひき」(出典:古事記(712)上)(ロ) 話者が話題としてすぐ前に話したこと、また、その内容などをさし示す。[初出の実例]「その世の歌には、すがた・言葉、このたぐひのみ多し」(出典:徒然草(1331頃)一四)⑥ ( 「この如(ごと)く」の略 ) このように。このような。[初出の実例]「我が構たりし事、当(まさ)に悪(あしからむ)や、院も此の感ぜさせ給ふ」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)⑦ 人を表わす語に付けて強く指示し、また、叱責の意を強める。[初出の実例]「この乞食めが」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)三)⑧ ( 「かの」「あの」などと対になって用いられ、二つもしくは二つ以上のうちの ) 一方は。[初出の実例]「妾也松浦〈佐用嬪面〉嗟二此別易一歎二彼会難一」(出典:万葉集(8C後)五・八七一・右詞文)「しばしこの事はてて、同じくはかの事沙汰しおきて」(出典:徒然草(1331頃)五九)⑨ 指示する内容が以下の話にあることを示す。次のような。[初出の実例]「さりながら一日がそのうちに、千たび百たび給はり候ても、この心にて候。わが主さまの此一首を詠み置き給へば、いかでむなしく候はんや。御分別候ひてくだされ候へ。なびくなよわが標し野のをみなへしあらぬ方より風は吹くとも」(出典:仮名草子・薄雪物語(1632)上) 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例