此れ(読み)コレ

デジタル大辞泉 「此れ」の意味・読み・例文・類語

これ【×此れ/是/×之/維/×惟】

[代]
近称指示代名詞
話し手が持っている物、または、話し手のそばにある物をさす。このもの。「―は父の形見の品です」「―を片付けてください」
㋑話し手が、いま話題にしたばかりの事物などをさす。このこと。このもの。「全世界の平和。―が私の切なる願いだ」
㋒話し手が当面している事柄をさす。このこと。「―を仕上げてから食事にしよう」「―は困ったことだ」
㋓話し手の現にいる場所をさす。ここ。「―へどうぞ」
㋔話し手が存在している時をさす。今。「―から出かけるところです」
㋕話し手のすぐそばにいる親しい人をさす。現代では多く、自分の身内をいう。「―が僕のフィアンセです」
㋖《漢文の「之」「是」などの訓読から》判断の対象を強調してさす。「…とは―いかに」「―すなわち」
一人称の人代名詞。話し手が自分自身をさす。わたし
「―は河内の国交野郡かたのごほり禁野の雉領にすまひする者でござある」〈虎清狂・禁野
[類語]それあれどれこのそのあのどのかの

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「此れ」の意味・読み・例文・類語

これ【此・是・之・維・惟】

  1. [ 1 ] 〘 代名詞詞 〙
    1. [ 一 ] 他称。事物、場所、時、人などについて、話し手側、すなわち相手に対する我の側、相手を含んだ我々の側に属するものとしてさし示す(近称)。ここにあるもの。→あれかれそれ・こ。
      1. 事物についてさし示す。眼前の事物ばかりでなく、話題の事物をもさす。
        1. [初出の実例]「ぬばたまの 黒き御衣(みけし)を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸(むな)見る時 はたたぎも 許礼(コレ)は適はず」(出典古事記(712)上・歌謡)
      2. 人物についてさし示す。平安時代では、敬意を含めた例が多い。このかた。現代では、目の前にいる自分の妻や子供などを、話し相手に示す場合にいう。
        1. [初出の実例]「昔、をとこ、筑紫までいきたりけるに、これは色好むすき物とすだれのうちなる人のいひけるをききて」(出典:伊勢物語(10C前)六一)
      3. 場所についてさし示す。→こちらここ
        1. [初出の実例]「ここにひとびとのいはく、これ、むかしなだかくきこえたるところなり」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月九日)
      4. 話し手および相手が現に存在する時をさし示す。いま。現在。
        1. [初出の実例]「これよりまれ出で立ち給へ。京におはせん限りは見奉らむ」(出典:落窪物語(10C後)四)
    2. [ 二 ] 自称。話し手自身をさし示す。わたくし。自分。
      1. [初出の実例]「いとうれしう問はせ給へるなむ。つれづれなるに、これよりこそ聞えまほしけれど」(出典:多武峰少将物語(10C中))
    3. [ 三 ] 対称。相手をさしていう。あなた。
      1. [初出の実例]「山の主(あるじ)、大きに驚きて『これは何ぞの人ぞ』、俊蔭答ふ、『清原の俊蔭』」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
    4. [ 四 ] 漢文の訓読、また訓読体の文章に用いる。
      1. 提示された主題を指定する。述部の前におかれる。
        1. [初出の実例]「瑞書に細勘(くわしくかんがふる)に是即景雲に在」(出典:続日本紀‐神護景雲元年(767)八月一六日・宣命)
      2. 発語の辞など。を転用したもの。
        1. [初出の実例]「維月維星皆為楽況於吾身。寿也孝也誰不賀、況於一人乎」(出典:江都督納言願文集(平安後)二・六十御賀擬作)
  2. [ 2 ] 〘 感動詞 〙
    1. 人に呼びかけ、注意をひく語。多く同輩や目下に対して用いる。もし。こら。おい。→これさ
      1. [初出の実例]「いやこれ。参りませいの。御ざりまするか」(出典:狂言記・丼礑(1660))
    2. 民謡などのはやしことば。
      1. [初出の実例]「とかく、ナンヨイヨイヨイ、音頭と、コレなすびとは、かけこゑ一つで、コレとれたもの」(出典:俚謡・ながし(明治‐大正)奈良県南葛城郡)

此れの語誌

( 1 )近世の漢文訓読体や候文体では、漢文の助辞的用法の「之」等を「これ」と読む。有之(これあり)、無之(これなし)、以此観之(これをもってこれをみるに)など。指示する内容をとりたてて考える必要のない場合も多い。
( 2 )法令文では、動詞の目的語を文頭に提示する際には、「これ」をもとの目的語の位置に代入する習慣があった。憲法第二三条の「学問の自由は、これを保障する」など。これは、漢文体の素地に受け入れた、ドイツ法律の翻訳文体といわれる。

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