其れ(読み)ソレ

デジタル大辞泉 「其れ」の意味・読み・例文・類語

それ【×其れ】

[代]
中称の指示代名詞
㋐聞き手が持っている物、または、聞き手のそばにある物をさす。そのもの。「ちょっと其れを見せてください」
㋑聞き手がいま話題にしたばかりの事物などをさす。そのこと。そのもの。「其れはいつの話ですか」「ああ、其れならお隣です」
㋒聞き手が当面している事柄をさす。そのこと。「其れが済んだら、早く寝なさいよ」
㋓親しい関係にある聞き手のそばにいる人をさす。その人。「へえ、其れがおまえの兄貴か」
㋔聞き手が現にいる場所をさす。そこ。
「そなたは―にお待ちやれ」〈虎明狂・今参〉
二人称の人代名詞。聞き手に対する敬意をこめて用いる。あなた。
「―はさこそおぼすらめども、己は…とは思ひ侍らず」〈徒然・一四一〉
[感]人に注意を促すときなどに発する語。そら。ほら。「其れ見なさい」「其れ行け」
[接](「夫れ」とも書く)《漢文の「夫」の訓読から》文頭に用いて語調を整える語。そもそも。いったい。
「―山伏と言っぱ、えん行者のあとを継ぎ」〈虎清狂・蟹山伏
アクセントはソレ。
[類語]これあれどれこのそのあのどのかの

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「其れ」の意味・読み・例文・類語

それ【其・夫】

  1. [ 1 ] 〘 代名詞詞 〙
    1. 他称。話題になっている、または関心の対象となっている事物、人、時、場所などをさし示す。
      1. (イ) 事物をさし示す。
        1. [初出の実例]「しかるがゆゑに、序礼(ソレ)受けむ人ら、車持たしめて」(出典正倉院文書‐万葉仮名文(762頃))
      2. (ロ) 人をさし示す。
        1. [初出の実例]「その時の女御、多賀幾子と申すみまそかりけり。それうせたまひて」(出典:伊勢物語(10C前)七七)
      3. (ハ) 時をさし示す。
        1. [初出の実例]「自爾(ソレよ)り今にいたる及(まで)に曾て廃絶(やふ)ること無し」(出典:日本書紀(720)神代下(熱田本訓))
      4. (ニ) 場所をさし示す。
        1. [初出の実例]「東の海にほうらいと言ふ山あるなり。それにしろがねを根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      5. (ホ) さし示す対象をほとんどもたずに感動詞的に用いる。
        1. [初出の実例]「鼠の穴米(よね)(つ)きふるひ木を鑽(き)りて引き鑽り出だす四つといふか曾礼(ソレ)」(出典:歌経標式(772))
    2. 他称。相手側の、または相手に近い関係にある事物、人、場所などをさし示す(中称)。
      1. (イ) 事物をさし示す。
        1. [初出の実例]「『やいやい、それはがんか』〈なまっていふ〉『中々鴈で御ざる』」(出典:虎明本狂言・雁盗人(室町末‐近世初))
      2. (ロ) 人をさし示す。
        1. [初出の実例]「其れは我が子で候と云ぞ」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)三)
      3. (ハ) 場所をさし示す。
        1. [初出の実例]「しばしそれにおはしませ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)五)
      4. (ニ) 相手の行為や動作をさし示す。
        1. [初出の実例]「子鼠の様子を見んと、息をこらしてながめ居たるに、子鼠は、更にそれとは心付かず」(出典:尋常小学読本(1887)〈文部省〉四)
    3. 他称。事物、場所、時などを漠然と、また、故意に名を伏せて、さし示す。
      1. [初出の実例]「それの年のしはすの二十日あまりひと日の戌(いぬ)の時に」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二一日)
      2. 「心あてにそれか、かれかなど問ふ中に言ひあつるもあり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
    4. 対称。相手をさしていう。あなた。
      1. [初出の実例]「時々はそれよりも驚かい給はんこそ思ふさまならめ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)浮舟)
      2. 「それは、さこそ思すらめども、己(おのれ)は都に久しく住みて」(出典:徒然草(1331頃)一四一)
  2. [ 2 ] 〘 接続詞 〙 文の初めに用いて、事柄を説き起こすことを示す。そもそも。いったい。
    1. [初出の実例]「臣安万侶言(まを)す。夫(そ)れ、混元既に凝(こ)りて気象未だ效(あらは)さず」(出典:古事記(712)序)
    2. 「夫(ソレ)雄剣を帯して公宴に烈し、兵杖を給て宮中を出入するは」(出典:高野本平家(13C前)一)
  3. [ 3 ] 〘 感動詞 〙 相手に指示し、注意を促すために発する語。そら。
    1. [初出の実例]「叉手して頭を伸て、子息四郎に、其れ討(うて)と下知しければ」(出典:太平記(14C後)一〇)
    2. 「『手があきまらせぬ』『それ左の手があいたは』」(出典:虎明本狂言・昆布売(室町末‐近世初))

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