摂津国武庫郡内の地名。武庫郡は現兵庫県西宮市にあたり,その東部を武庫川が流れ,河口には古代に武庫泊(むこのとまり)が営まれていた。大阪湾をはさんで難波津の対岸にあたるので〈向こう〉が武庫の語源であるといい,また神功皇后が兵具をおさめたことから名が起こったともいわれる。武庫川は上流の杣山(そまやま)から木材を伐採して流すのに利用され,郡内にある広田神社は山手(入山料)と率分(そつぶん)(武庫川の関料)を徴収していたが,上流の開発が進むに従いこの徴収が困難となり,11世紀には神人(じにん)と近辺住人との間に相論が頻発している。一方,武庫泊の史料上の初見は,神功皇后が難波に向かったが船が進まず〈務古水門(むこのみなと)〉に戻ったという《日本書紀》の記載で,応神31年条には500艘の船を武庫水門に集めたともみえる。大輪田泊(おおわだのとまり)が栄えるようになると武庫泊は衰退した。なお武庫泊を大輪田泊(八部郡)の前身とする説もある。
→兵庫
執筆者:飯田 悠紀子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
兵庫県南部、旧摂津(せっつ)国南西部にあたり、『和名抄(わみょうしょう)』の武庫郡武庫郷の地。難波(なにわ)の地の向かい側一帯をさし、武庫川流域の尼崎(あまがさき)市、西宮(にしのみや)市の大阪湾に沿う地。『日本書紀』の神功(じんぐう)皇后の条にみえる「務古水門(むこのみなと)」はこの地の港であり、また『万葉集』には「たまはやす武庫(むこ)のわたりに天づたふ日の暮行けば家をしぞ思ふ」などの歌がある。『西摂大観(せいせつたいかん)』(1871編)には、「武庫海」は、東は尼崎へんより西は大輪田(おおわだ)(神戸市)に至る一帯の海をさすとしている。明治以前は良質の米の産地であり、また西宮を中心にわが国屈指の酒造地として知られる。
[藤岡ひろ子]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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