血液循環の停止により,血液が重力の作用で死体の下位になった部分に移動(この移動を血液就下という)して,非圧迫部の皮膚が血液の色によって斑状に着色することで,死体現象の一つである。死斑は死後30分くらいから発現し,2~3時間で著しくなり,半日で完成する。色調は一般に帯紫赤色であるが,これは血管と皮膚を通して見た血液の色で,還元ヘモグロビンと酸素ヘモグロビンの混合した色である。一酸化炭素中毒死体では一酸化炭素ヘモグロビンによって鮮紅色を呈するが,寒冷な場所に置かれた死体の死斑も酸素ヘモグロビンによって同様の鮮紅色を呈する。塩素酸カリ,亜硝酸ソーダ,白髪染などの中毒死体ではメトヘモグロビンによる暗褐色を呈する。硫化水素中毒死体では硫化ヘモグロビンによる帯緑色を呈するが,普通の死斑の色のこともある。水中でも,静水中の死体には死斑が発現するが,川や海などで体位がつねに変動するところでは死斑が現れない。
執筆者:小嶋 亨
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血液を放置すると血球は自己の重量によって沈降するが、死体内では血管内を移動し下位の部分に就下(しゅうか)してくる。この血液の色が皮膚を通して観察できる場合、これを死斑という。興奮時に顔面が紅潮するのと似ているが、死斑はかならず下位の部分に現れるので、たとえばうつぶせ死体の背中側に死斑があれば、これだけで、だれかが死体位を転換したものと推測できる。ただし、死斑が下位に現れるといっても、強く圧迫される部分には生じない。死斑は死後20~30分くらいで斑紋状に現れ、徐々に広く・強くなり、10~14時間くらいで最強になるが、この推移は死因等によく相応した変化を示す。たとえば、急死体の血液は流動性であるため、早く・強く発現し、失血死では弱いか、発現しない。死斑は、通常、暗赤色~暗紫赤色(酸素が消費された還元ヘモグロビンの色)を呈するが、急性一酸化炭素中毒では死斑は鮮紅色となり、死因の推定上有用である。また、死斑には死後経過時間の推定に有用な法則性もある。すなわち、死後5時間くらいまでは、死体位を転換すると死斑は新たな下位部分へ完全に転移するが、約12時間以上ではほとんど転移しなくなる(これは指圧等で簡単に検することもできる)。その理由として、血漿(けっしょう)成分の血管外漏出による血液濃縮説や、溶血したヘモグロビンによる周囲組織への浸潤説等が示されている。
[古川理孝]
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…これは早期,晩期,異常死体現象に分けられる。
[早期死体現象]
死後1日以内に現れるもので,瞳孔の対光反射の消失および散瞳,眼圧の低下,上位の皮膚の蒼白化と下位になった部位への死斑の出現,筋肉の弛緩後に現れる死体硬直rigor mortis,皮膚や口唇粘膜などの乾燥,角膜の混濁,死体の冷却がある。死亡時に散大した瞳孔は,死後1~2時間で直径5mmくらいになる。…
※「死斑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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