改訂新版 世界大百科事典 「青酸中毒」の意味・わかりやすい解説
青酸中毒 (せいさんちゅうどく)
poisoning by cyanic acid
シアン化水素(青酸HCN),シアン化カリウム(青酸カリKCN),シアン化ナトリウム(青酸ソーダNaCN)などのシアン化合物による中毒をいう。シアン化合物は服用,接触,吸入によって,胃や気道,皮膚から体内に吸収され,血液中のヘモグロビンと結合してシアンヘモグロビンとなって,酸素とヘモグロビンの結合を阻害する。このために酸欠状態となり,一定濃度以上になると,脳が酸欠の影響を強く受けて,呼吸中枢の機能が停止し,死に至る。致死量は0.15~0.3gといわれ,急性中毒では,初め頭痛,めまい,嘔吐などがあり,呼吸は不規則となり,呼吸困難に陥る。吸収した量が低濃度の場合は,頭痛,吐き気,心悸亢進,呼吸数の増加などが症状として現れる。シアン化合物はめっき,冶金,種々の化学物質の製造などに用いられており,産業中毒として発生するが,近年,工場排水による水汚染,自動車の排ガスによる大気汚染,新建材などの燃焼によるシアンガスの発生などが問題となっている。また,自殺・他殺などに用いられることもあり,毒物及び劇物取締法(1950制定)により,シアン化合物の輸入,製造,販売,管理などについては,厳しく規制されている。
執筆者:溝口 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報