日本大百科全書(ニッポニカ) 「死体硬直」の意味・わかりやすい解説
死体硬直
したいこうちょく
死後に筋肉がこわばり、これによって関節などが動かしにくくなる現象。死後、筋肉はいったん弛緩(しかん)するが、すぐに硬直し始め、その硬直は死後6~8時間くらいで全身の筋肉に及ぶ。この場合、硬直の発現順序には法則性(ニステンの法則)があり、一般には、頭・顔面部から指・趾(し)(足の指)の筋肉へと進む下行型が多いとされている。硬直が最強になるのは死後20時間くらいであり、それが30時間くらいまで継続し、その後は徐々に解けて、通常、3~4日で完全に緩解する。ただし、この変化は死体の内的・外的条件によってかならずしも一定しない。たとえば、筋肉質の人では硬直が強く・長時間持続するとか、暑い時期の硬直発現・緩解は寒い時期より早いなどの傾向がみられる。死体硬直は、力こぶをつくったときのように筋肉が収縮して硬くなるわけではなく、死後、いったん弛緩した筋肉がそのままの状態で硬化すると考えればよい。したがって、強く硬直した死体では、死亡場所や死亡状況に相応した屍態(したい)を呈するはずのものである。しかし、もしその屍態が、こうした条件に合致しないならば、どこか他所において死亡、もしくは殺害後に運搬・遺棄されたものと推測できるわけである。死体硬直は、生体において筋肉の伸縮に必要なアデノシン三リン酸(ATP)という物質が、死後減少し、その結果、筋線維内のタンパク質(アクチンとミオシン)が不可逆的に結合するために発現すると考えられている。こうした硬直に外力を加えて無理に緩解させることもできるが、死後5時間くらいまでは、残存する硬直未完成の筋線維によって再硬直が現れる。硬直の緩解は腐敗現象によるもので、筋肉におけるタンパク結合が破壊されるためにおこると説明されている。
[古川理孝]