戯曲。4幕8場。村松梢風原作,巌谷慎一脚本。1937年(昭和12)10月東京明治座初演。配役は尾上菊之助を花柳章太郎,お徳を水谷八重子,5世尾上菊五郎を喜多村緑郎。実話をもとにした芸道物の一つで,《鶴八鶴次郎》とともに昭和新派の名作としての定評を得た。5世菊五郎の養子の菊之助と乳母お徳の悲恋が中心で,菊五郎の勘気にふれた菊之助はお徳とともに大阪で5年間の辛い生活を送る。お徳は愛する菊之助を世に出すため一身を犠牲にして菊之助を東京の檜舞台へ復帰させる。初演の2年後,溝口健二監督で映画化(花柳章太郎,森赫子主演)され,その年のキネマ旬報ベストテン第2位。戦後も再三映画化され,また新派以外の舞台でもたびたび上演されている。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
新派戯曲。村松梢風(しょうふう)が1937年(昭和12)9月『サンデー毎日』増刊に発表した小説を巌谷(いわや)三一(慎一)が脚色。同年10月東京・明治座で、花柳(はなやぎ)章太郎(菊之助)、水谷八重子(お徳)、喜多村緑郎(きたむらろくろう)(5世菊五郎)らで初演。5世尾上(おのえ)菊五郎の養子菊之助は義弟(後の6世菊五郎)の乳母(うば)お徳と恋に落ち、養父に勘当されて大阪へ落ちる。5年後、辛苦のかいあって養父に呼び戻されるが、肺を病むお徳は身を引き、さらに2年後、養父とともに華々しく大阪に乗り込んできた菊之助に抱かれて息を引き取る。新派昭和期の代表的な純愛物。39年の溝口健二監督、花柳・森赫子(かくこ)主演の映画化は、日本映画史上の名作の一つに数えられている。近年では新脚色による上演も多い。
[土岐迪子]
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