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毒ガス どくガスpoison gas; noxious gas

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

毒ガス
どくガス
poison gas; noxious gas

化学兵器として戦場で使われる有毒の気体,もしくは煙霧となる液体,固体の有毒化合物を総称する。最初に戦場で使われたのは第1次世界大戦中であった (1915,ドイツ軍) 。第2次世界大戦では使用されなかったが,ドイツで開発されたGガス (神経毒) など毒性が強く,即効性のものが製造された。その使用に関してはハーグ陸戦条約 (07) などで禁止されているが,現在では,警察の武器として,暴動鎮圧用に催涙性の毒ガスが実用化している。毒ガスは構造上からは次のように分類される。 (1) 塩素ガス。 (2) ハロゲン化エステル (ホスゲン) 。 (3) ハロゲン化エーテルおよびチオエーテル (イペリット) 。 (4) ハロゲン化ケトン (クロロアセトン) 。 (5) 側鎖にハロゲンを有する芳香族 (塩化ベンジル) 。 (6) ハロゲン化ニトロ化合物 (クロロピクリン) 。 (7) 青酸化合物 (塩化シアン,シアン化ブロモベンジル) 。 (8) ヒ素化合物 (ルイサイト) 。 (9) 有機リン化合物。毒ガスの生理作用は,催涙性,窒息性,びらん性,神経毒などがおもなものであるが,向精神作用剤や LSDなどの精神擾乱剤を利用した一時的な活動不能性ガスなども開発されている。

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デジタル大辞泉の解説

どく‐ガス【毒ガス】

人間・動物に対して危害を与える気体または霧状液体で、軍事目的に使用されるもの。窒息性・靡爛(びらん)性・くしゃみ性・催涙性・神経性・精神錯乱性などの種類がある。第一次大戦でドイツ軍が最初に用いた。現在は国際条約で使用禁止。

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百科事典マイペディアの解説

毒ガス【どくガス】

兵器として使用される有毒物質の総称で,代表的な化学兵器。1915年第1次大戦でドイツ軍が塩素を用いたのが最初。以後各国で数十種を開発。常温で気体のもののほか液体や固体のものもある。人体への作用から窒息ガス(ホスゲンなど),糜爛(びらん)ガス(イペリットなど),血液ガス(青酸など),神経ガス催涙ガスなどに分ける。毒ガスはその非人道性のため1925年のジュネーブ議定書で使用を禁止しているが,今でも製造されている。
→関連項目ノドン

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大辞林 第三版の解説

どくガス【毒ガス】

人体または動植物に対して毒性を有する気体物質。また、それらを気化あるいは霧状にして散布する兵器。その毒性から、窒息性・糜爛びらん性・神経性・催涙性・嘔吐性などに分類される。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

毒ガス
どくがす
poison gas

第一次世界大戦中の1915年4月22日、ドイツ軍はイーペルの戦いで風上からガス放出器を用いて有毒性の塩素ガスをフランス軍陣地に流し、大きな損害を与えた。その後、連合国側も各種の有毒性化学薬品を開発して使用したが、それらが気体であったため、第一次世界大戦参加諸国が人道的見地から25年6月17日に合意に達したジュネーブ議定書も「窒息性、毒性、またはその他のガス及び細菌学的戦争方法の戦争使用を禁止する議定書」となっていて、専門用語である化学兵器よりも毒ガスということばのほうが普及して使用されている。これに対して、液体、固体粒子、植物に毒性を示す化学物質もまた戦争手段として使用できるので、毒ガスも含めて一括して化学兵器とよぶのが正しい。
 この意味で毒ガスを、人体が害を受ける生理機能から分類すると、神経剤、皮膚剤、刺激剤、精神剤があり、毒性効果によって致死剤、非致死(無能力化)剤、効果の持続時間によって持続性、一時性に分類されるが、厳密な区別は不可能である。使用法には砲爆弾、ミサイル弾頭に装着するほかに、航空機や巡航ミサイル、地上発射装置から気化もしくはエーロゾル化(エアロゾル化、煙霧化)し噴射して気流に乗せて送り込む方法がある。注射器や毒矢のような器具を使用する場合は、毒ガスということばは使用しない。また1960年代中ごろからアメリカで、バイナリー方式と称して、毒ガス成分を毒性を示さない2成分に分割しておき、砲爆弾の発射後自動的に混合して強力な毒性を示す毒ガスに変化させるという方式が開発された。この方式だと平和な時期に長期間安全に保存することも可能であり、世論が毒ガス製造に反対することも困難化している。
 毒ガスが最初に使用されたのは1914年6月、フランス軍が催涙性のブロム酢酸エステルを手榴(しゅりゅう)弾に詰めたことに始まるが、その後、前記のドイツ軍による塩素ガス、それに対抗する窒息性のホスゲン、血液中毒性の青酸と開発され、第一次世界大戦末期には、皮膚をただれさせ、吸入すれば肺機能を侵す持続性のマスタードガス(別名イペリット)が開発されるに至った。現在世界の毒ガス保有国が保持しているのはマスタードガスと、農業用殺虫剤の研究に端を発して開発された神経剤GB(サリン)およびVXである。これら神経剤は、神経の興奮伝達に必要なコリンエステラーゼを不活性化し、VX36ミリグラムが1000分の1秒作用しても殺人効果を示す。国連の軍縮委員会(現軍縮会議)で討議されてきた化学兵器禁止条約は、97年4月29日に発効した。[和気 朗]
『歩平著、馬場節子・戸田佐智子訳『日本の中国侵略と毒ガス兵器』(1995・明石書店) ▽七三一部隊国際シンポジウム実行委員会編『日本軍の細菌戦・毒ガス戦――日本の中国侵略と戦争犯罪』(1996・明石書店) ▽紀学仁主編、村田忠禧訳、藤原彰・粟屋憲太郎解説『日本軍の化学戦――中国戦場における毒ガス作戦』(1996・大月書店) ▽ロバート・ハリス、ジェレミー・パックスマン著、大島紘二訳『化学兵器――その恐怖と悲劇』(1996・近代文芸社) ▽高暁燕著、山辺悠喜子・宮崎教四郎訳『日本軍の遺棄毒ガス兵器――中国人被害者は訴える』(1996・明石書店) ▽小原博人・新井利男・山辺悠喜子・岡田久雄著『日本軍の毒ガス戦――迫られる遺棄弾処理』(1997・日中出版) ▽尾崎祈美子著、常石敬一解説『悪夢の遺産――毒ガス戦の果てに ヒロシマ~台湾~中国』(1997・学陽書房) ▽アンジェロ・デル・ボカ編著、高橋武智日本語版監修『ムッソリーニの毒ガス――植民地戦争におけるイタリアの化学戦』(2000・大月書店) ▽ルッツ・F・ハーバー著、佐藤正弥訳、井上尚英監修『魔性の煙霧――第一次世界大戦の毒ガス攻防戦史』(2001・原書房) ▽粟屋憲太郎編『中国山西省における日本軍の毒ガス戦』(2002・大月書店) ▽石切山英彰著『日本軍毒ガス作戦の村――中国河北省・北坦村で起こったこと』(2003・高文研) ▽宮田親平著『毒ガスと科学者』(文春文庫)』

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世界大百科事典内の毒ガスの言及

【イーゲー・ファルベン[会社]】より

…ナチ政府と強固に結びつき,その下で1930年代にIGは急速に発展した。第2次大戦中,毒ガスの生体実験を強制収容所の囚人に行ったことがニュルンベルク国際軍事法廷(1945‐46)で暴露され,国際的非難を浴びた。戦後,東ドイツ地区の工場を失い,また西ドイツ地区では,連合国により世界平和に脅威を与えるものとして,解体を指示され,バイエル,BASF,ヘキストの三大後継会社と,カッセラCassella,ヒュルスHürlsの計5社に再編された。…

【イペリット】より

…びらん(糜爛)性の毒ガスとして知られる,塩素と硫黄を含む化合物ビス(2‐クロロエチル)スルフィド(ClCH2CH2)2Sをいう。第1次世界大戦中,ベルギーのイープルYpers付近でドイツ軍が初めて使用したことからこの名がある。…

【塩化カルボニル】より

…窒息性,催涙性があり,吸入すると呼吸困難になり,数時間後に肺水腫を生じて死亡する。第1次世界大戦時には毒ガスとして使用された。p‐ジメチルアミノベンズアルデヒドと無色のジフェニルアミンの同量を10%のアルコールまたは四塩化炭素溶液とし,これをろ紙に浸して乾燥した試験紙はホスゲンにより黄色または濃オレンジ色を示す。…

【化学】より

… 19世紀から20世紀半ばまでの化学の著しい発達の過程に際して,化学が人類の進歩・福祉に果たす積極的役割に対して疑問や批判が寄せられたことはまったくといってよいほどなかった。第1次大戦において両陣営が毒ガスを使用し,多くの死傷者を出したことは深刻な問題を投げかけた。しかし毒ガス戦の立役者F.ハーバーに対する批判も彼のノーベル賞受賞を妨げなかったし,また毒ガスへの批判は,その使用禁止に関する国際的取決めという形となってあらわれ,毒ガスをつくった化学への批判という形をとらなかった。…

【化学兵器】より

…また広義には,発煙剤,焼夷剤なども含め化学兵器と呼ぶが,本項目では狭義の化学兵器について述べる。なお,化学物質を気化させガスにして用いるものを一般に毒ガスと呼ぶが,初期の化学兵器の大半は毒ガスであり,現在でも化学兵器を総称して毒ガスと呼ぶこともある。 化学兵器は,害を受ける生理機能から神経剤,皮膚剤,刺激剤,精神剤に,毒性効果によって致死剤,非致死(無能力化)剤,効果の持続時間によって持続性,一時性に分類されるが,厳密な区別は不可能である。…

※「毒ガス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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