改訂新版 世界大百科事典 「民族舞踊学」の意味・わかりやすい解説
民族舞踊学 (みんぞくぶようがく)
ethno-choreology
dance ethnology
一般にバレエやモダン・ダンスなどの西洋の舞台芸術としての舞踊以外のすべての舞踊を研究する学問とされる。しかし,西洋の芸術音楽の研究を行う音楽学にあたる学問が確立していないので,取り扱うジャンルや地域よりはむしろ方法論に重点が置かれる。
舞踊に関する記述はプラトンやアリストテレスにみられ,古代ギリシア時代から研究は行われてきたことがわかる。しかし,民族舞踊学は1960年代以後盛んになった。舞踊研究を行っている大学や研究機関が少ないので,研究者は民族音楽学,人類学,演劇学,体育学,日本学,アジア研究などの出身者が多く,方法論はそれぞれの出身の学問のそれに基づいている場合が多い。したがって舞踊の様式研究は研究者たちによって多くの試みがなされている段階である。そのなかでとくに重要なものは,ラバンの考案したラバノーテーションとエフォート・シェープeffort shapeである。ラバノーテーションは動作の方向,時間的長さ,レベルによって記号化し,身体の各部を並列して記譜する。エフォート・シェープは,ラバノーテーションによって動作の形態が記譜されるのに対して,動作のダイナミックスを記述することができる。
舞踊と社会との関係を比較文化的にとらえようとしたのがロマクスのコレオメトリクスchoreometrics(計量舞踊学)である。動作の分析にはラバンのエフォート・シェープを基礎とする。(1)身体のどの部分に運動が起こるか。(2)(1)でチェックした部分の数。(3)身体の使い方。例えば上半身を腰から曲げて,身体を二つのユニットとするか,あるいはどの部分も曲げないで一つのユニットとするか。(4)推移の型。例えば腕を極限まで伸ばした後,どのように推移するか。(5)動作の形。例えば鋭角的に曲げた動作や円運動。(6)エネルギーの推移。動作の方向が変わるときどのようにエネルギーが使われるか。(7)動作のエネルギー。例えば静かな動作からエネルギーを蓄えて爆発させる。(8)エネルギーの変化の種類。(9)身体を通じての動作の流れ。例えば身体各部が同時に異なった動きをするとか,動きは身体のある1ヵ所から始まり各部へ広がっていくなど。(4)から(9)はそれぞれ1~7点が与えられる。以上の項目についてG.P.マードックの規定した233の文化より選び出した舞踊を調べ,日常の動作と舞踊の動きや異なる文化間の舞踊の動きの比較を行おうとしている。
舞踊研究はアメリカで近年盛んになり,カリフォルニア大学ロサンゼルス校やハワイ大学などに民族舞踊学の講座が置かれている。学会はアメリカにCORD(Congress on Research in Dance),日本には舞踊学会がある。
執筆者:大谷 紀美子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報