河川の川幅は,何十年に一度という大洪水によって形成され,また,堤防間隔も数十年から200年に一度発生するような洪水を対象に設計されているから,ふだん流水の少ないときは,広い川幅の中を流水が乱流し,川筋が一定しないことが多い。川筋が一定しないと用水の取入れが不便であり,舟運に必要な水深を確保することもできない。また,川筋が堤防や川岸に近づきすぎたところや河道の屈曲部では,洪水が堤防,川岸に激突し,その決壊や破堤の危険が生ずる。そこで,ふだんの川筋(低水路という)を安定させることや洪水時に流水を堤防,川岸に激突しないように川の中央部に追いやり,高水敷を造成することなどを目的に,堤防,川岸から中心部に向けて突出させて設けた工作物を水制という。水制は川の中心部に向けて突出させるため,川幅の狭い河川では対岸への影響が大きく,近年では,堤防護岸,低水路護岸の発達とあいまって,中小河川では設置されない傾向にある。だが中小河川でもその要所や大河川には多くの水制を見ることができる。
水制は,日本では水刎(みずはね),刎出(はねだし)と呼ばれ,古くから伝えられており,河川の状態によって多種多様の形態,名称を有している。例えば,低平地河川では,石れきがなく杭を打ちやすいことから杭打ちによる杭出水制が発達し,杭を打てない扇状地河川などでは,牛類による牛水制,枠類による枠水制が発達した。なお,牛水制,枠水制はそのままでは流されてしまうので,竹や鉄線で組んだ籠に石れきをつめた蛇籠をのせたり,枠に石れきを詰める。このほか,土砂で築造した土出水制,石造の石出水制,粗朶沈床(そだちんしよう)(木の小枝で枠を組み,その中に石を詰めたもの)に上覆工をしたケレップ水制,コンクリートブロック水制,コンクリートブロックを大型化させたシリンダー水制やピストル水制などがある。これらのうち,土出水制,石出水制などは,その中を流水が自由にくぐりぬけることができないもので,不透過水制と呼ばれ,流水の方向を強く変える機能をもっている。また,杭出水制,牛水制などは,その中を比較的自由に流水が通過できるもので,透過水制と呼ばれ,流れに抵抗を与えて流勢を弱める効果を有している。籠出水制,枠水制,コンクリートブロック水制などは,石れきやブロックの詰め方にもよるが,半不透過水制に分類される。
また水制には,流水方向におおむね直角に設置したものと,流水方向に平行なものとがあり,前者を横工,後者を縦工または平行工と呼んでいる。この横工と縦工を組み合わせた形状によって,曲出し,丁出し,鎌出し,鍵出しなどの名称が与えられている。なお,横工には,流れの方向に直角に出すもの,斜め上向きに出すもの,斜め下向きに出すものの3種があるが,洪水時に流水が水制の上を越流するときには水制に直角に流下する傾向があり,下向き水制は堤防近くが深く掘られるため,ほとんど採用されず,例外的に,流水が越流できないほど高く造られた黄河の水制に見られる程度である。水制は一般に単独で設置されるよりも,その機能を十分発揮させるために,群として配置されることが多く,その配置の間隔やそれぞれの水制の規模は,河川の特質やその水制群の目的に応じて,長年の経験に基づいて決められている。
→堤防
執筆者:大熊 孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
河川の流れを制御するために河岸から流れの中心に向かって突き出して設置される工作物。水制は流水を流れの中心に押しやったり(水はね効果)、流れに対する抵抗となり、河岸付近の流速を遅くして(粗度効果)、河岸浸食を防止する。流路が乱流する河道では、低水路・舟運路を固定するために設置される。河岸に沿って複数の水制を配置することが多いが、水制と水制の間に土砂が堆積(たいせき)して植物が生えるなど水制群は河岸に変化を与え、水生生物の生息の場となる。水制には粗度効果をもつ透過水制と水はね効果をもつ不透過水制(越流型、非越流型)がある。透過水制には杭(くい)水制、枠水制、コンクリートブロック水制などがあり、不透過水制には土出し水制、石出し水制などがある。
[鮏川 登]
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