水干(読み)スイカン

デジタル大辞泉 「水干」の意味・読み・例文・類語

すい‐かん【水干】

のりを使わないで、水張りにして干した布。
1で作った狩衣かりぎぬ一種盤領まるえりの懸け合わせを組紐くみひもで結び留めるのを特色とし、袖付けなどの縫い合わせ目がほころびないように組紐で結んで菊綴きくとじとし、裾をはかまの内に着込める。古くは下級官人の公服であったが、のちには絹織物で製して公家くげや上級武家の私服となり、また少年の式服として用いられた。

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精選版 日本国語大辞典 「水干」の意味・読み・例文・類語

すい‐かん【水干】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 水張りにして干した布。
    1. [初出の実例]「青色の襖(あを)、紅(くれなゐ)の衣(きぬ)、すりもどろかしたるすゐかんといふはかまを着せて」(出典:枕草子(10C終)一一九)
  3. で作った狩衣の一種。盤領(まるえり)の懸け合わせを結紐(ゆいひも)と呼んで紐で結び合わせるのを特色とし、縫い合わせたところがほころびないように組紐で結んで菊綴(きくとじ)とし、裾を袴に着こめるのを例とした。地質は布製を本来のものとするが、風流として登(のぼり)鰭袖(はたそで)に絹の織物を裁ち入れたり、全体に絹を用いたりした。
    1. 水干<b>②</b>〈法然上人絵伝〉
      水干〈法然上人絵伝〉
    2. [初出の実例]「余自陸参、有六番競馬、〈水干冠〉皆勝負申刻事了」(出典:台記‐久安二年(1146)九月一八日)
    3. 「はじめはすいかんにたて烏帽子、白さやまきをさいて」(出典:高野本平家(13C前)一)
  4. 水のほとり。水涯。

水干の補助注記

に挙げた「枕‐一一九」の「すゐかんといふはかま」は、三巻本以外の諸本では「すゐかんはかま」となっており、水干というものを着る時の長袴の意ととるのが通説だが、水干の生地を用いた袴とする説に従って掲出した。

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改訂新版 世界大百科事典 「水干」の意味・わかりやすい解説

水干 (すいかん)

平安時代以降,下級官人および武家の用いた衣服。のりを使わず板の上で水張りにして干し,乾いてから引きはがして張りをもたせた布で仕立てられたためこの名で呼ばれた。盤領(あげくび),身一幅仕立て,脇あけ,(あお)系統の上着である。同じ襖系の狩衣がボタン式の入れひもと受緒で襟を合わせ留めるのに対し,長い丸組のひもで襟を合わせ結ぶ。また狩衣は裾を袴の中に着込めず,外に出すが,水干の裾は袴の中に込める。水干のほころびやすい袖付,奥袖と端袖(はたそで)の縫目,身ごろと登(のぼり)(衽(おくみ))の縫目の要所に組ひもをとおして結び,結びあまりをほぐして総(ふさ)として飾り,これを菊綴(きくとじ)と呼んでいる。水干には烏帽子(えぼし)をかぶり,裾口を緒で締めてすぼめるようにした括(くく)り袴をはくが,股立の合せ目のところと膝の上の縫目に左右それぞれ2個ずつ菊綴をつけた水干袴と呼ばれるものも用いられた。下級官人の舎人(とねり),牛飼のほか衛府の官人や武士も水干を用い,鎧の下にも着られた。材質は白麻布のほか色物,描絵,巻染,取染などで文様を表したものもあり,祭の使い,供奉(ぐぶ)のときには風流を尽くして端袖や登の色を変えたり華やかな錦をつけたりした。鎌倉時代以後,公家は鷹狩り,蹴鞠(けまり)のとき以外は幼年の用いるものとし,武家は狩衣とともに礼装に使い,麻布のほか平絹,綾,紗などを生地とした。水干と袴が同質の組合せになったものを水干上下(かみしも)といった。水干は盤領形式であるが,その領(襟)を内側に折り込んで垂領(たりくび)形式に着るときもあった。滝口の武士が着る狩衣を水干狩衣といい,これも登と端袖の地質を変えたり華やかにしたもの。また,儀式のときに弓矢を持つ役の調度懸(ちようどがけ)や舎人などが着るものを走(はしり)水干とも呼んだ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水干」の意味・わかりやすい解説

水干
すいかん

平安時代以降、朝廷に仕える下級官人が用いた衣服の一種。水干とは、布に糊(のり)を使わず、板に水張りにして干し、乾いてから引きはがして張りをもたせて仕立てた衣という意味。その形式は盤領(あげくび)、身一幅(ひとの)仕立て、脇(わき)あけで、襖(あお)系の上着。襟は組紐(くみひも)で結び留め、裾(すそ)は袴(はかま)の中に着込める。同じ襖系の狩衣(かりぎぬ)はボタン式の入れ紐と受緒で襟を留め、裾は外に出して垂らす点で異なる。水干のほころびやすい箇所である袖付(そでつ)け、奥袖と端袖の縫い目、身頃(みごろ)と衽(おくみ)の縫い目の要所に組紐を通して結び、その結び余りをほぐして総(ふさ)とし、補強と飾りにして、これを菊綴(きくとじ)とよんだ。水干姿には烏帽子(えぼし)をかぶり、袴の裾口に紐を通して締める括(くく)り袴をはくが、股立(ももだち)の合せ目と膝(ひざ)の上の縫い目に左右それぞれ2個ずつ菊綴をつけた水干袴をはくこともあった。

 平安時代後期には、白麻布のほか色無地、描絵(かきえ)、絞り染め、型染めなど文様を表したものが使われ、祭りの使い、供奉(ぐぶ)などのときに端袖や衽に別の色のものや美しい織物を用いた、いわゆる風流(ふりゅう)の水干を着た。衛府の下級武官となった武士も水干を用い、鎧(よろい)の下にも着用した。宮中の警護にあたる滝口の武士が着る狩衣を水干狩衣といい、これも衽と端袖の地質を変えて華麗につくられた水干の一種である。水干姿もしだいに礼装化して、水干と袴が同質のものを水干上下(かみしも)と称した。また水干は盤領形式であるが、その襟を内側に折り込んで垂領(たりくび)式に着る方法も考案された。鎌倉時代から室町時代にかけて、武家は狩衣とともに礼装として着用し、麻布のほか平絹、綾(あや)、紗(しゃ)などの生地を使ったものも現れた。

[高田倭男]


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百科事典マイペディア 「水干」の意味・わかりやすい解説

水干【すいかん】

装束の一種。のりを使わず,水張りにして干した布で作るのでこの名があるという。形は狩衣(かりぎぬ)と同系のものであるが,裾(すそ)を袴(はかま)の下に着込む着装法,衿(えり)もとを紐(ひも)でくくって留めることなどが狩衣と異なる。平安時代には一般男性の服装であったが,鎌倉時代に入って武家の間に用いられるようになり,形も整い,地質も元来絹以外の布であったのが,綾や紗(しゃ)が用いられるようになった。着装法には,盤領(あげくび)()のまま着る着方と,衿を内側へたたみこみ垂領(たりくび)にして着る着方がある。
→関連項目流鏑馬

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「水干」の解説

水干
すいかん

布を水で精練し乾燥させて張りをもたせた簡易な装束。仕立ては狩衣(かりぎぬ)に似せた盤領(まるえり),身1幅の布で,首上(くびがみ)の留めを紐とし,前身と後身を短くして袴に着籠(きご)めて着用。縫い目の綻(ほころ)びを防ぐため,辻々の綴(くく)り糸を太くし,結び余りを押し広めて菊綴(きくとじ)と称し装飾を兼ねた。元来,庶民の装束だったが,武士の台頭とともに体裁が整えられ,材質も麻のほか,平絹(へいけん)・精好(せいごう)なども用いられ,公家も内々に着用した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水干」の意味・わかりやすい解説

水干
すいかん

水干狩衣 (かりぎぬ) の略。平安時代後期から江戸時代まで用いられた男子用和服の一種。初めは庶民のものであったが,のちに公家,さらに鎌倉時代頃からは武家にも用いられるようになった。着装は盤領 (あげくび) でありながら垂領 (たりくび) にするのが特色。地は麻布,葛布が多かったが,時代が下るとともに華麗になって平絹,紗,綾を用いた。また狩衣でありながら,上衣を下袴に着込めるのもこの服装の特色といえよう。

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旺文社日本史事典 三訂版 「水干」の解説

水干
すいかん

平安中期から鎌倉時代に着用された狩衣の一種
糊を使わず水張りにして干した絹という意から出た名称。布・絹・綾の類を用い,襟 (えり) をひもで結び合わせ,要所に菊綴 (きくとじ) をつけるのが特色。平安末期から無位の官人の常用服,庶民の晴着となった。

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世界大百科事典(旧版)内の水干の言及

【長絹】より

…固く織って張りのある,またはのりで固く張った上質の絹のこと。転じて,それを生地として仕立てた水干(すいかん),狩衣(かりぎぬ)または直垂(ひたたれ)のことをいう。鎌倉時代から武家の衣服として用いられた。…

【服装】より

…狩衣はもと狩猟の襖(あお)系の服であったが,平安後期から鎌倉時代にかけて公家日常の服となり,地質,色目,文様など美麗なものがあらわれた。水干(すいかん)も襖の系統の服で,ふつう短い括袴を用い,公家に仕える庶民,武家の間に広く行われた。 この時代には女子の礼服にも変化が起こり,男子の束帯に対するものとして晴装束(女房装束)が行われた。…

※「水干」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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