水平社(読み)スイヘイシャ

デジタル大辞泉 「水平社」の意味・読み・例文・類語

すいへい‐しゃ【水平社】

被差別部落解放を目的として、被差別部落の人々が自主的に結成した全国組織。大正11年(1922)京都で創立大会を開き、運動は全国各地に広がった。太平洋戦争中に自然消滅したが、戦後部落解放全国委員会として復活し、昭和30年(1955)部落解放同盟と改称した。正式名称は、全国水平社

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精選版 日本国語大辞典 「水平社」の意味・読み・例文・類語

すいへい‐しゃ【水平社】

  1. 被差別部落解放を目的として、被差別部落の人々が自主結成した全国組織。大正一一年(一九二二)京都で創立大会を開き、運動は全国各地に広がった。第二次世界大戦中に消滅したが、戦後、部落解放全国委員会として復活し、昭和三〇年(一九五五)部落解放同盟と改称して、現在に至っている。正式名称は、全国水平社。

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改訂新版 世界大百科事典 「水平社」の意味・わかりやすい解説

水平社 (すいへいしゃ)

被差別部落の人々が,差別と貧困からの解放を求めて,1922年に結成した自主的・大衆的な部落解放運動の団体。正式には全国水平社という。1918年の米騒動には多くの部落の人々が参加していたが,その後のデモクラシー風潮の高まりと,労働者,農民などの社会運動の発展のなかで,部落の青年たちは,従来の恩恵的な部落改善政策や欺瞞(ぎまん)的な同情融和運動に批判的となり,社会主義思想の影響も受けて,みずからの努力と大衆的な団結の力をもって差別からの解放を実現しようとした。22年3月3日,京都の岡崎公会堂に各地から3000人が集まって全国水平社の創立大会を開き,綱領・宣言・決議などを採択した。西光万吉(さいこうまんきち)の起草した宣言(水平社宣言)は,水平社運動が人間の尊厳,自由・平等の理念もとづいて一切の差別とたたかい,部落出身者だけでなくすべての人間の解放をめざすことを明らかにした。創立大会では南梅吉が委員長に選ばれたが,25年の第4回大会後は松本治一郎が長くその地位にあった。全国水平社の初期の運動は,部落差別の原因が人々の因襲的な観念にあると考え,これを打破するため,差別言動をおこなった団体・個人を徹底的に糾弾する方針をとった。この運動は多くの部落の人々を奮起させ,急速に運動が拡大するとともに,多くの府県の各部落に水平社が組織されていった。地方水平社の数は1922年に3府5県約60社であったが,23年末に3府27県300社,25年には703社と急増した。1923年に全国水平社青年同盟が結成され,運動の発展にともなって,部落差別は政治・経済・社会的関係に根ざすことが明らかにされ,部落の差別を存続させている社会組織そのものの糾弾へと向かうようになった。こうして水平社運動は行政や軍隊の差別を糾弾しつつ,労働者・農民の階級闘争との結合をはかろうとした。この方向に反対する右派の南梅吉らは1927年,別に日本水平社を組織した。また全国水平社内の左派は31年,他の急進的左翼団体との結束を強めて水平社解消論を唱えたが,この意見を克服すべく,33年第11回全国大会において部落委員会活動の方針が採用された。これは部落の劣悪な生活の実態を差別のあらわれととらえ,日常生活の諸問題をとりあげてたたかうなかで,労働者・農民のたたかいと結合しようとするものであった。身分闘争と階級闘争とを統一したこの新方針のもとで運動は,1933年の高松地方裁判所差別裁判糾弾闘争を契機に発展し,関係司法官の免職要求の成功をとおして,全国の部落の人々の60%を全国水平社の影響下に置くほどまでにいたり,組織も拡大した。しかし,37年7月に日中戦争が全面化するにしたがい,活動を続けることに困難さを増し,しだいに挙国一致政策に協力するようになり,40年の部落厚生皇民運動や大和報国運動,41年の同和奉公会に参加する者も出てきた。しかし,全国水平社の組織そのものは,言論出版集会結社等臨時取締法による届出をおこなわず,42年1月,自然解消の道を選んだ。太平洋戦争後の1946年2月,全国水平社の伝統を受けついで部落解放全国委員会が結成され,55年に部落解放同盟と改称した。
部落解放運動 →被差別部落
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水平社」の意味・わかりやすい解説

水平社
すいへいしゃ

1922年に被差別部落の自主解放を目指して創立された団体。正確には全国水平社という。西光万吉,阪本清一郎らを中心とした奈良,三重,大阪などにある被差別部落の青年グループが呼びかけ,京都で開かれた創立大会には全国から 2000人あまりの代表者が参加した。大会では自主的解放,職業と経済の自由の要求,人間性の覚醒など3ヵ条の綱領と宣言を採択し,明治末年以来,政府によって遂行された恩恵的な部落改善,融和政策を排撃した。組織は中央に全国水平社連盟本部を置き,府県水平社,部落水平社が置かれた。創立大会以後,運動は全国に広がり,部落民に対する差別と偏見を打ち破る力となった。 1926年には共産主義の影響下で,左派が部落解放を無産者階級の解放に直接に従属すべきものとしたり,1931年には水平社という身分組織は部落労農大衆の階級的自覚を妨げるとして水平社を解消しようとしたため,運動は一時低迷したが,のちに左派は自己批判した。それ以降,身分闘争と階級闘争を結合した部落委員会活動が行なわれることによって再び組織も発展したが,1937年日中戦争勃発後,政府の圧迫のもとで,1940年8月第 16回大会を最後に運動は自然消滅した。第2次世界大戦後は部落解放全国委員会として再建され,1955年に部落解放同盟と改称した。 (→部落解放運動 )

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「水平社」の解説

水平社
すいへいしゃ

第2次大戦前期の部落解放をめざす自主的・大衆的な運動団体。米騒動や労働運動の発展,民族自決・社会主義思想などの影響をうけて,1922年(大正11)3月全国水平社が結成された。創立大会では西光万吉(さいこうまんきち)の起草による水平社宣言を採択。初期は差別糾弾闘争を中心とし,全国的に支部が組織された。その後,階級闘争を重視して労働運動や農民運動との連帯を求める傾向が強まり,それに右派やアナーキストが反発して分裂状態となった。昭和前期,深刻な不況のもとで部落改善要求と身分闘争が重視され,反軍闘争などが広範に展開されるなかで左翼的傾向は弱まっていったが,戦時体制下でファシズムに転向する傾向も現れ,42年(昭和17)に解消した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「水平社」の解説

水平社
すいへいしゃ

大正・昭和期の部落解放運動の中心組織
大正デモクラシー期の社会運動の発展の中で,不当な差別をうけつづけた被差別部落民は政府の融和事業に満足できず,1922年3月,京都で全国水平社を創立。'23年末までに全国に240余りの地方水平社が結成され,差別事件の糾弾に全力を注いだ。その後,労働者・農民運動との結合を深めたが,ファシズムの重圧下に1940年,その活動は停止を余儀なくされた。現在の部落解放同盟の前身。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水平社」の意味・わかりやすい解説

水平社
すいへいしゃ

全国水平社

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世界大百科事典(旧版)内の水平社の言及

【アナ・ボル論争】より

…総連合組織形態をめぐってアナ派は自由連合,ボル派は中央集権を主張したが,結局大会は官憲によって流会させられ総連合運動は失敗に帰した。以後両派の対立・論争は他の社会運動の分野にもおよび,22年創立された全国水平社の運動では24年から25年にかけアナ・ボル両派の主導権争いが展開され,他の無産者運動と比べおくれて組織化されたプロレタリア婦人運動では28年を境にアナ・ボル両派の路線論争がおこなわれた。労働運動におけるアナの影響力は23年9月関東大震災での大杉殺害(甘粕事件)で大きく後退した。…

【同和教育】より

…統合はあらわな学校自体の差別の解消を意味するが,部落児童にとっては,統合は日常的な教員と級友による無数の直接的な差別との対面を意味する(その象徴は座席差別)。1922年創立の水平社が開始した差別糾弾闘争は,積年の差別・侮辱・迫害への怒りを〈てこ〉とする〈人間観奪還〉のたたかいであった。 教育立法の勅令主義に象徴されるように,客体としての国民=臣民が義務教育をとおして国家の政治意志を日常的に強制された第2次大戦前にあっては,部落民にとって,義務教育の拒否(盟休)は国家と教育への強力な意志表示であり,水平運動への参加は,そのまま教育=自己変革の過程となった。…

【被差別部落】より

…初めての被差別部落に対するこの国家的措置が実現したのが,〈身分解放令〉の年から数えて実に半世紀も後のことであったのは,記憶するに値しよう。
[水平社の創立]
 第1次世界大戦前後のこのような情勢下,民間では〈融和運動〉が各地で推進されていた。それの趣旨は,政府・地方官庁等が被差別部落の〈自粛〉を促す〈慈恵〉的措置を基本とするのに不満を表明し,〈人道主義〉の立場を強調して,〈官民一致〉の体制による差別の解消を広く国民に訴えていくというものであった。…

【部落解放運動】より

…被差別部落(同和地区)およびその出身者に対する差別の撤廃(部落問題の解決)すなわち被差別部落の完全解放をめざす自主的・大衆的な社会運動。その本格的な展開は1922年(大正11)に全国水平社(水平社)が創立されてからであるが,それ以前にも部落差別の解消・撤廃を求める動きはあった。解放運動の歩みと密接な関係をもつ被差別部落の全体的な歴史については〈被差別部落〉の項目を参照されたい。…

※「水平社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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