水産加工(読み)すいさんかこう

改訂新版 世界大百科事典 「水産加工」の意味・わかりやすい解説

水産加工 (すいさんかこう)

水産食品製造のため水産動植物を利用・加工することをいうが,水産物原料とする飼肥料,医薬品,工用品などの製造も含めることがある。

生鮮魚介類はそのまま食用に供するほか,ひじょうに腐敗しやすいため先史時代にすでに素干し,煮干し,塩蔵などの加工品が作られていたようである。歴史時代に入り《風土記》《延喜式》などにはこの時代に利用された魚介類,水産加工品の記載があるが,素干し品,煮干し品,塩蔵品のほか酢漬,すしなども出回りはじめた。また水産物は調庸賦役の一つとして,するめ,干しアワビ,干しナマコ,干しワカメ,塩蔵アユ,塩蔵ブリなどが朝廷に納められた記録がある。奈良時代にはカツオの煮汁が調味料として登場し,ところてんの製造もはじまった。鎌倉・室町時代になるとクラゲ,ホヤ,ウナギ,サメ,イルカ,コンブなどが新たに利用されるようになり,加工品では塩干しアユ,塩引きサケ,アジずし,塩蔵サバ,このわた(ナマコの腸の塩辛),サメやイルカの肉の塩干し品が作られた。江戸時代にはマツモアラメ,ワカメ,コンブの乾燥品が多く出回り,寒天を作る技術も確立した。かまぼこの製造は以前から行われていたが,今日の製法の基礎ができたのはこの時代である。鰹節(かつおぶし),なまり節の製造も本格化した。魚卵の利用も盛んになり,筋子,たらこ,干しかずのこ,からすみ,くちこ(ナマコの卵巣を干したもの)などがみられるようになった。塩辛類の種類も多くなり,めふん(サケの腎臓の塩辛),うるか(アユの内臓の塩辛)も登場し,イワシのぬか漬,こうじ漬,アワビのかす漬など漬物類も豊富になった。魚しょうゆではイワシ,ハタハタ,アミ,アワビなどのしょうゆが作られた。このように現在の水産加工技術の大部分は江戸時代までにその基本ができ上がっている。明治維新後は在来技術の改良と外国技術の導入が積極的に行われ今日に至っている。

 明治以降の特色は機械化が急速に進み多くの製品で大量生産が可能になったことで,そのおもなものは缶詰加工,練製品および冷凍すり身製造,調味加工品製造などの各技術で,関連するものとして製氷・冷凍技術がある。

缶詰

日本における缶詰製造は,1871年(明治4)長崎の松田雅典がフランス人の指導をうけて試作したのが初めといわれる。2年後に東京で外国からの缶詰技術の導入が事業として採択された。77年北海道の石狩に大規模な缶詰工場が建設され,アメリカから技術者を招いて指導を受け,日本の技術者の育成が行われた。国内で缶詰の価値が認められ安定した需要が出るまでにその後10年近くを要したが,日清戦争で缶詰が軍需物資に指定されたのが契機となって本格的な加工食品として定着した。現在の水産缶詰の製造技術は明治末期にすでにその基礎が確立されたといえる。昭和に入ってサケ,カニの缶詰を中心として缶詰は輸出品の花形となり生産規模も飛躍的に増大した。現在,日本はアメリカを除けば世界でも有数の缶詰生産国であり,輸出だけでなく国内消費も盛んである。

 1969年には缶詰とほぼ同じ工程でつくられるレトルト食品が開発された。缶の代りにプラスチックフィルムアルミ箔を容器にするもので,軽量で取り扱いやすいため最近消費が大きく伸びている。

かまぼこ,ちくわなどの魚肉練製品は日本独特の加工品で,すでに江戸時代末期に現在の製造法の基礎ができ上がっていたが,1952年北海道水産試験場によって開発された冷凍すり身技術は魚肉練製品の製造に革新をもたらした。資源量は大きいが従来利用価値の低かったスケトウダラ肉を用いることが可能になったためで,20年後にはスケトウダラの冷凍すり身が魚肉練製品原料の約70%を占めるに至った。関連して,魚肉ハムソーセージはかまぼこの製造技術を利用した畜肉様製品である。すでに1935年ころに試作されていたが,55年ころから大手水産会社の生産が盛んになり,72年には生産量は18万t近くに増加した。しかし近年は社会情勢の変化により畜肉ハム・ソーセージへの志向が強まり,7万t程度の生産量に減少している。

これも日本特有の加工品で日清戦争の際,調味料による水産物の保存性の向上が認められ,つくだ煮をはじめ,みりん干しなどの技術が発達した。1965年以降,イカ裂き機やイカ剝皮法が開発され,イカの調味加工品が急速に伸びたほか,タラ,フグ,カワハギ,貝類の調味加工品を含め生産量が約40万tになった。

1879年アメリカ人技師の指導により横浜に製氷工場ができたのが日本における機械製氷の初めである。水産物の鮮度保持に本格的に氷蔵法がとり入れられたのは1900年前後といわれている。一方,冷凍については,太平洋戦争前の冷凍温度は-25℃が下限で貯蔵室は-5~-15℃であったため,水産物の長期貯蔵に適さず,冷凍ものといえば品質が低下したものということが常識になっていた。その後冷凍技術が急速に進歩し-50℃という貯蔵室も普及しており,現在全漁獲量の1/3以上が冷凍され,その量は200万tを上回っている。

水産加工品は食用品と非食用品とに大別できるが,非食用品の中には食用品の加工原料の一部として利用されるものも含まれる。表におもな水産加工品を示す。

 これら加工品の製造は,大手水産会社ではほとんど機械化された大量生産工程で行われているが,小規模加工場では,製品の種類が多様であることもあって旧来の手仕事方式によっているところも多い。

 乾製品の製造には,天日乾燥法や凍干法などの天然乾燥法と機械装置による熱風・冷風・真空の各乾燥法や焙乾(ばいかん)法のような人工乾燥法が用いられる。薫製品は,原料→調理→塩漬→水洗→水切り→風乾→薫煙処理,により製造する。塩蔵品の製法には,振り塩漬法(散塩(まきじお)漬法)と立塩(たてじお)漬法(塩水漬法)があり製品により使い分けられている。缶詰の製造は,原料→調理→詰込み・注液→脱気→密封→殺菌→冷却→打検,が基本工程となっている。レトルト食品もほとんど同じ工程で製造される。練製品の製造は,原料→調理→採肉→水さらし→擂潰(らいかい)(すりつぶして混和する工程)→成形→加熱,の工程による。冷凍すり身を原料に用いる場合は,擂潰→成形→加熱,の工程で製造される。なお,冷凍すり身の製法については〈すり身〉の項目を,また非食用品の製法については〈フィッシュミール〉〈フィッシュソリュブル〉の項目を参照されたい。
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漁獲生産された水産物を原料にして加工し,冷凍食品,調理食品,練製品,缶詰,飼肥料,魚油などの食品や畜産・工業原料を生産する産業で,漁業と不可分に結びついている。各種水産加工食品を製造しているいわゆる総合メーカーは,全国で約1万3000事業所を数えるが,近年やや減少傾向にある。大半は従業員100名以下の小規模事業所である。

 日本の水産加工は高度成長期に大きく発展した。この時期の漁業生産は中高級魚を選択的に漁獲する方向と,下級魚を大量に漁獲する方向の両極的な伸長がみられたが,ことに後者の場合は水産加工業によって,その発展が支えられたのである。多獲魚の代表的魚種であるスケトウダラが画期的なすり身技術の開発によって,サバが青切りや缶詰加工の展開によって,イワシ(マイワシ)が魚油,飼肥料製造業と連動することによって,それまでの生産量を激増させ(スケトウダラ,サバは1960年代半ば以降,マイワシは76年以降),年間100万~300万tの驚異的な生産をあげているが,それは大量漁獲と量産加工との有機的な結合による工場的生産体制の確立があったことを示すものにほかならない(1990年代に入りマイワシの漁獲が激減し,このためこれを主な原料とする肥飼料,油脂は大幅に減少している)。量産加工の飛躍的伸長は,スケトウダラすり身が大量安価の練製品原料を供給して,かまぼこ製造業の発展をうながしているように,水産加工業の発展に寄与している。しかし,原料資源の〈無限性〉を前提に成立している大量生産型加工がいかにもろいものであるかは,米ソが200カイリ漁業専管水域を宣言したことに起因する76-77年の200カイリショックに見舞われた東北,北海道の水産加工業の経済的混乱によって余すところなく証明された。

 このような大規模水産加工の展開が漁業生産に連動したものであるとするならば,冷凍・調理食品加工などは,高級化し多様化した消費者のニーズに適合しようとする市場対応型の展開方向をとっているといえる。このため水産加工業の立地条件も,旧来の漁村(漁家)加工や特産地加工などの伝統加工が後退し,企業の新規参入や成長によって活性化した産地,消費地加工が伸長するといった新旧交替も急速に進行した。その過程で,新規需要を獲得するような水産食品も開発されている。鉄道の旅につきものの函館の〈ソフトさきいか〉,外地の味を継承した福岡,下関の〈からしめんたい〉,本場のアメリカをしのいだ清水の〈シーチキン(缶詰)〉,海外でも好評を得ている〈かに風味の練製品〉などがそれである。しかしこれらのヒット食品も,その原料の大半を海外に求めざるをえない状況にあり,そのことが日本の水産物輸入に拍車をかける結果にもなっている。
水産業
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